外交=公約と現実のギャップ
トランプ次期大統領が外交面でただちに取り組むべき喫緊の最大課題は、バイデン政権と同様、ウクライナ戦争だ。ロシア侵攻以来、来月でまる3年を迎えるが、米国としてこれまで対ウクライナ支援のために、経済、軍事合わせ1810億ドルもの巨費を投じてきた。しかし、最近に至るまで、戦争終結の見通しは全く立っていない。
これまで選挙戦などを通じ、「大統領就任1日目に戦争を終わらせる」と公言してきたトランプ氏だったが、当選後、いよいよ20日のホワイトハウス入りが近づいた1月7日の記者会見で、「6か月はほしい。できればそれより早く終わらせたい」と弱気の姿勢を見せた。ロシア、ウクライナ双方の主張と立場があまりにも開きすぎている現実に直面し、一歩後退した印象をぬぐえない。
しかし、ウクライナ問題にかぎらず、朝鮮半島情勢でも、結果的になんの成果も挙げられなったものの、いきなり北朝鮮に乗り込み、金正恩総書記と会談した例にならい、トランプ氏が再び唐突な行動に出る可能性は否定できない。
軽率な行動が国際危機を引き起こす恐れもある。
トランプ前政権下で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、英紙「Guardian」とのインタビューで「第二次トランプ政権の下で大きな国際危機が発生する可能性は以前にもまして大きい」と前置きして以下のように語っている:
「彼は、その都度直面する重要な政策課題について集中して決定を下すことができず、私はそのことが、(諸外国から)どう受け止められるかを非常に心配している……ロシアのプーチン大統領が、トランプ自身は利用されていることの危険に気づかないまま、彼を巧みに操ることができると感じている。プーチンにしてみれば、彼は手玉に取りやすい標的だ。相手が自分のことをどう見ているかを理解できないとしたら、それこそ『状況認識の欠如(lack of situational awareness)』を意味し、トラブルを惹起させうる。ウクライナ、そして中東ガザ紛争についても、『即時解決』を吹聴しているが、それこそまさにトランプそのものであり、大言壮語(braggadocio)の典型だ」
その一方で、トランプ氏が「アメリカ第一主義」に固執し、対外コミットメント軽視の姿勢を一段と強めるシナリオについても、ジョージ・W・ブッシュ大統領(共和党)当時の首席補佐官だったアンドリュー・カード氏は「今日、世界は極めて危険な状況にあり、まさに今こそアメリカのリーダーシップを必要としている。国民がそれを求めているかどうかではなく、アメリカは今義務付けられている。もし、アメリカが様々な国際的挑戦に対して何も行動を起こさなかったならば、その空間を他国が埋めにかかろうとするだろう」と警告している。
まさに中露などによる冒険主義的挑発の可能性に言及したものだ。
いずれにしても、今後、トランプ氏の前には、「トランプⅠ」当時以上の幾多の難題が内外に立ちはだかっていることだけは確かだろう。