主人同士が中学校の同級生であることがわかると同時に、ふたりになにかわだかまりがあるように見えるのが、ドラマの伏線となる。
祖父母と夫婦、その長男と次男の6人家族の浜口家と、祖母と夫婦と一人娘の西郷家の幸福な未来がくるのがみえるような、にぎやかな食事会から間もなくのことである。
東日本大震災の地震と津波が、ふたつの家族を襲うのだった。海の近くに住んでいた漁師の浜口家は、家が流され、祖母と長男、妻を失い、祖父(橋爪)と主人(柳葉)と次男の高校生の光彦(神木隆之介)が生き残った。
高台に住んでいた西郷家は、家も残り、全員が無事だった。主人(中井)と妻・麻子(樋口可南子)、そして長女の千晶(黒木)である。
家族3人を失った浜口家も、婚約の相手を失った千晶を抱える西郷家もそれぞれが不幸である。
悲しみや喜びの本質をえぐりだすという宿命
山田太一の脚本は、フィクションの衣装をまといながら、震災地の人々の感情のひだに分け入っていく。孤独であり、言い知れぬ不安である。そして、それを癒してくれるものを求める自然な感情である。そこには性的な香りもかすかに漂う。
フィクションもノンフィクションも、他人の心のなかに入り込んで、その悲しみや喜びの本質をえぐりださなければならない、宿命を抱えている。
婚約者を失った千晶は、その弟の6歳も年下の高校生の光彦と肉体関係に陥る。ふたりの関係は愛なのか、震災によって喪失したなにかを埋めようとしているものなのか。
仮設住宅に入居した浜口家を見舞った、西郷奈美(吉行)をバス停まで送って行った吉也(橋爪)が突然、「ハグしてくれんかなぁ、外国人みたいに。とにかく心細くて」という。
バスはバス停に到着する。奈美は乗り込み、車窓から手を振る吉也にこたえるようにして、また手を振るのだった。
これもまた通常の恋愛感情ではない。孤独と不安が胸からつきあげてきたのである。