2024年11月21日(木)

田部康喜のTV読本

2014年1月8日

 日本の名作映画、ドラマの数々に出演してきた、藤村志保の静かなナレーションでドラマは幕を開ける。野草の花々が咲く田園地帯が一瞬にして戦場に変わり、その花を摘んでいた少女は戦いのなかに巻き込まれて命を散らす。

 NHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」は、乱世の世情を描いたのも束の間、豊臣秀吉(竹中直人)が小田原の城下を見下ろすシーンとなる。秀吉が天下統一を成し遂げる「小田原征伐」(1590年)である。北条氏政の居城の小田原城を、一気に攻め落とせる自信をみせる秀吉のもとに、黒田官兵衛(岡田准一)がにじり寄る。戦わずとも和睦は可能であると。

 官兵衛がひとりで小田原城の城門の前に立ち、弓と鉄砲の弾がかすめる。「死ぬことはござらぬ」と告げる。和睦に終わることを暗示するように、門は開かれる。

芝居の命脈を保ってきた大河ドラマ

 大河ドラマの戦国物語は、幕末・維新の物語とならんで、幾度も取り上げられて十八番ともいえる。ちなみに、十八番とは、歌舞伎の市川海老蔵が昨年亡くなった、父團十郎から継いだ市川宗家が代々受け継ぐ18の作品をいう。

 「軍師 官兵衛」のなかで秀吉を演じる竹中直人は、「秀吉」(1996年)でも同じ役を演じている。この時の官兵衛役は伊武雅刀である。「花の生涯」(1963年)に始まった、大河ドラマは今回が53作目となる。

 「戦後の日本は芝居を失った」と語ったのは、コラムニストの山本夏彦だった。芝居小屋が立ち並んだ浅草の光景は遠い過去である。旅回りの一座が列島の各地で興行をしていたことを知る人も少ない。

 亡き山本翁に敬意を払いながら、江戸から続く芝居の命脈を保ってきたのが、大河ドラマではないかと思う。


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