彼らは徴兵による入隊ではなく、軍と契約して今回の軍事作戦に従事する志願兵とみられる。昨年は、この志願兵の死亡者が、ロシア軍の戦死者の約2割を占めたとも報じられている。
なぜ彼らは志願兵となるのか。ウファ市があるバシコルトスタン共和国での報道をみれば、その理由が浮かび上がってくる。
手厚い金銭的支援、軍を礼賛するメディア
「ウファでは特別軍事作戦(ウクライナ侵攻作戦)に従事した人々は、住宅を購入する際に50万ルーブル(約75万円)が提供される。2025年3月31日までに軍と契約した人に限られる。期限はこれまでも延長されている。希望する人は、パスポート、軍との契約書のコピーの提出が必要。今回の割引プログラムに参加する企業が住宅を建てる場合に、割引用のクーポンが適用される」
ウクライナ侵攻に加われば、住宅購入で手厚い保護が受けられるというのだ。また入隊時に支払われる、臨時収入の高さを宣伝する報道もあった。自治体が金額を吊り上げ、地元住民を戦争に参加するよう積極的に促している現状が浮かび上がる。
「特別軍事作戦に志願するバシコルトスタン共和国出身者らは、100万ルーブルを得ることができる。志願兵らの給与を引き上げる命令にこのほど、共和国のラディー・ハビロフ首長が署名した。それによれば、住民はロシア国防省との契約を結んだ際に、その場で50万5000ルーブルが手渡される。これまでこの金額は、20万5000ルーブルだった。
つまり、国から支給される金額と合わせれば、特別軍事作戦に参加する住民は100万ルーブルが手渡されることとなる」
軍務を称賛する翼賛的な報道も少なくない。
「バシコルトスタン共和国から特別軍事作戦に参加しているデニス(という名前の兵士)は、前線で自らの命を危険にさらしつつも仲間らを救った。行政担当者がこの出来事を伝えた。担当者は、デニスが所属する部隊から手紙が送られてきたとしている。それによれば、兵士らは特定の地点に移動する必要があったが、その途中で敵軍のドローンや銃撃を受けた。デニスは、その状況を素早く察知し、かつ任務の重要性を理解しており、一切の戦死者を出すことなくその任務をやり遂げた」
「ウファ市内で、特別軍事作戦の参加者による写真展が始まった。バシコルトスタン共和国国立博物館では、同博物館の職員で、現在軍務に従事しているレオニド・ユルダショフが送ってくれた写真を展示する展示会〝あなたたち〟が行われている。写真は、レオニドがルガンスク、ドネツク人民共和国を訪れたときに撮影されたものだ。レオニドは、写真展のオープニングには参加したが、その翌日には再び任地に戻った」
バシコルトスタン共和国は、カザフスタンに近いロシア中部の共和国だ。はちみつなどが名産だが、経済的には決して豊かとはいえない地域で、モスクワなどと比べれば、人々の生活レベルは低い。高齢者になれば、新たな収入を得る手段は極めて限定的になる。
そのようななかで、特別軍事作戦に参加することで100万ルーブル(約150万円)が得られるという内容は、住民にとり魅力的であったに違いない。ロシアの平均月収は約7万3000ルーブル(約11万円)程度とされるが、地方ではそれを大幅に下回ることがざらで、一時金の支払いだけでも、高齢者や職を探す人々には魅力であったに違いない。