いずれにしても、豪州のこの地域への関心は高く、どんな定義であれ、今後も議論に関わって行くことだろう。豪州は中国を含む概念を推進するだろうが、同時に、緊張を高め地域を不安定にさせるような行動には、否定的対応を示すだろう。豪州は、域内対立の渦の中に居続けるだろう、と述べています。
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上記論説は、インド太平洋という概念に関して、豪州とインドでは、中国の扱い方が異なる点を指摘したものです。豪州は、中国を地域の安全保障体制に組み込む関与政策を基本としますが、インドは、中国と国境を接し、直接的な脅威を前に、中国を抜きに戦略体制を構築したいと思っています。
日本も中国と国境を接し、尖閣諸島問題を始め、直接的な脅威にさらされています。この点では、インドと共通項が多く、インドが語る「真珠の首飾り」は、日本の「自由と繁栄の弧」とも合致します。日本とインドが海軍協力をより推進する意義は、十分にありそうです。
上記は、「中国封じ込め」と言われるようなことは避けたいとの立場を明白にしている論説です。
もちろん「中国封じ込め」は誰も表に出しては言わないことです。新興ドイツの封じ込めが目的であった1907年の英露仏協商でも、ドイツという言葉は一言もありません。英露間、英仏間の紛争の種を全部除くのが直接の目的であり、その結果として、ドイツが唯一の敵として残る形となっています。
麻生元外相の「自由と繁栄の弧」と言い、ヒラリー・クリントンの「アジア回帰」と言い、中国の名指しは避けつつも、その含意は中国包囲網形成であることは明らかです。
しかし、心の中では包囲網形成であって、表現上これを避けているのと、対中戦略の基本として包囲網形成反対であるとの間には大きな違いがあります。この論文は、明らかに後者です。
筆者の履歴を見ると、労働党政権時代の活動が多く、その政治的志向は自ずと明らかなように見えます。現に、この論文の中で、筆者は、持説を開陳し、それが豪州の態度であるかのごとき断定的な言い方をしつつも、正直に、アボット政権の下ではどうなるか分らない、と書いています。
そして、アボット政権の考え方は、12月5日のメルボルン大学における講演の中で、慎重な言い回しではありますが、日本、インドとの協力に重点を置いています。
アボット政権成立を契機として、豪州の思潮にも変化が見られることが期待できるかもしれません。
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