豪州戦略政策研究所(ASPI)のブログ・サイトThe Strategistの11月26日付けに、豪州国立大学(ANU)のウェイド客員研究員が、中国がメディアを通して、反米感情を煽ったり、領土拡張を訴えたりしている現状を紹介して、警告を発しています。
すなわち、中国の新書『中国は恐れない――国家安全保障への新脅威と戦略対応』は、人民解放軍の戦略の一部として、軍人か否かを問わず国内の精神的引き締めを行なうと共に、中国の行動を規制する外国勢力を牽制するものである。その他にも、人民解放軍が係ったと思われる映画と通信社の記事にも、同様の分析が成り立つ。
中国の映画『静かなる競争』は、10月に中国及び世界のネットに上がるや否や論争を呼んだ。そして、その月の末までには、何の告知もなく、映画は中国のサイトからは削除された。ただ、他のサイトでは見ることが出来る。
映画は、米国が、5つの方法によって中国政府を転覆させようとしている様子を描いている。その方法とは、(1)政治的に中国を弱体化させる、(2)文化的浸透を図る、(3)思想戦をしかける、(4)諜報部隊を訓練する、及び(5)中国国内の反体制派を強化すること、である。全体としては、米国が中国を支配下に置こうとしているということを伝えたいようだ。映画を見た中国国内の軍人や民間人は、侮辱された感情と怒りを持つだろう内容である。
映画の製作に人民解放軍は密接に係った。具体的には、国防大学、中国社会科学院、及び、国家安全部の管轄にある現代国際関係研究院が、今年初めに映画の製作に関与した。これは、確かに、米国のアジア回帰に対応したものであるが、より深い根本原因もあるだろう。これだけ権威ある中国の諸機関が映画製作に携わったということは、そこで示された極端な感情が人民解放軍のタカ派に限られたものではないことを表す。
今年7月には、更に問題となる領土回復主義の記事が、中国新聞網のサイトに掲載された。この記事は、「今後50年間に中国が戦わなければならない6つの戦争」という題名で、人民解放軍の一部に見られる超国粋主義の態度を示している。しかし、このような記事が中国国営通信社に掲載されるという事実から、これが指導部で認められた考えであることが想像出来る。