昨年10月末の時点で、北朝鮮はウクライナに特殊作戦軍出身の金英福副総参謀長、李昌虎偵察総局長、申金哲(音訳)総作戦局処長の3人の将軍を送り込み、500人の将校とともに指揮をとらせているとの情報が認められた。捕虜の供述は、この情報を裏付けるものだといえよう。
戦闘技術を上げる北朝鮮兵
北朝鮮は大きな損害を出しながらも、今日まで戦果を上げている。1月11日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは戦死した北朝鮮兵の日記を公開したが、そこには朝鮮人民軍が編み出した対ドローン戦術が記されていた。
「ドローンを発見したら3人のグループに分かれる。1人がエサ(注:おとり)となって、ドローンをおびき寄せ、2人が狙いを定めて精密射撃で無力化する。エサはドローンから7メートルの距離を保たなければならない。他の2人は10〜12メートルの距離からドローンを撃墜する準備をする。エサが止まるとドローンは静止するので、撃墜できる」
朝鮮人民軍は派兵当初、操縦者がゴーグルを装着して空撮映像を見ながら操作する一人称視点(FPV)ドローンにまったく対応できていないと指摘されていた。それがわずか3カ月の実戦経験から上述の戦術を編み出すに至ったのだ。
この戦術は戦友を心から信頼できないと実行できない。また、戦場という緊迫した状況の中、短時間でドローンを撃ち落とすことは簡単ではない。この戦術一つとっても、北朝鮮兵が勇敢で士気が高く、戦闘技術に優れていることがうかがえる。
そして、北朝鮮兵は戦闘車両の支援を受けず、朝鮮戦争さながらに歩兵が大挙して突撃し、陣地を攻略するという。陣地占領後、一般的には態勢を整えて後続部隊を待つところ、彼らはすぐさま次の陣地の攻略に取りかかる。
このようなロシア軍と異なる戦術に、ウクライナ軍は苦戦を強いられている。実際にウクライナのアンドリー統合軍司令官は22日、ニューヨーク・タイムズの取材に、「彼ら(注:北朝鮮兵)は戦闘経験を積み、ますます強くなっている」「北朝鮮は消耗戦の道具ではなく、現代戦に適応して新たな脅威になっている」と率直な感想を述べた。
「戦闘詳報」が意味するもの
これまで紹介してきた朝鮮人民軍の戦いぶりは、1940年代から脈々と続く思想教育、宣伝扇動の成果だといえる。それを証左するように、12月31日付の金正恩国務委員長から兵士に宛てた新年挨拶を書き写したメモも見つかった。
多くのメディアは北朝鮮兵の日記やメモから「洗脳」など異常性を強調しているが、筆者は別の見方をしている。それはこれまで公表された日記やそれらに関する報道から、兵士たちが「戦闘詳報」を記録していることだ。
戦闘詳報とは、戦闘経過や戦果判定、戦訓所見などを取りまとめて報告するもので、通常は部隊単位に作成し、指揮官が上級部隊に提出する。これを朝鮮人民軍では兵士単位で記している。
そこから考えられるのは、戦訓の蓄積と共有だ。北朝鮮では、しばらく前から「追い越し・見習い・経験交換運動」という大衆運動が行われている。成果を上げた事業所などをモデルケースとして、それを見習い、経験を共有して全体としてステップアップすることを指す。朝鮮人民軍はロシアで、それとまったく同じことをやっているのだ。