対ドローン戦術を編み出し、共有する。1940年代からの伝統戦術を現代戦で用いて、問題点を洗い出し、改善する。このような軍事活動を行っているからこそ、ウクライナ統合軍司令官が吐露したように「新たな脅威」に生まれ変わったのではないか。
北朝鮮が派兵した目的について、さまざまな角度からの分析があるが、筆者は一貫して、金正恩氏がロシアという反米連帯の盟主と共に歩むことを決めた、いわば金正恩氏の世界観によるものだと見ている。
もちろん、ミサイル技術の移転なども期待はしているだろう。しかし、筆者は世界観の次に来るのは、上述のとおり戦訓を蓄積・共有して、朝鮮人民軍を現代戦に適応した軍隊に作り変えることだと考える。
若者の〝憧れ〟にも
視線を北朝鮮国内に移そう。北朝鮮では12月1日から3月末まで、例年どおり冬季訓練が行われている。北朝鮮では7月10日から3カ月間の夏季訓練、12月からの冬季訓練を通じて部隊の練度を高める。特に冬季訓練では、凍った河川を利用して大部隊が一挙に南進するシナリオで行われることが多い。
中朝国境に近い平安北道のある住民は、冬季訓練の模様について語る。
「兵士たちも『次は自分たちの番だ』と燃えている。中国から輸入したドローンを使って、身を隠したり、撃ち落としたりする訓練をやっているが、数が少ないので、多くの部隊では竹竿に紙で作ったドローンもどきを吊るして訓練しているそうだ。ドローンで多くの兵士が殺されたのはみんな知っているから、訓練は熱を帯びている。
また、学習と総括も真剣で、金正恩元帥と共和国(注:北朝鮮のこと)の名を汚さない、絶対に捕虜にはならないと誓い合っている。いつ派兵されるのかわからないし、もしかしたら死ぬかもしれないから、部隊の団結は以前の数倍も強くなっているという」
この住民の言葉から、北朝鮮が派兵第一陣の戦訓を共有して訓練していることがうかがえる。加えて、「戦時下」の期待と興奮が、若者世代にも影響を与えているという。
「毎年、春に招募(注:徴兵のこと)が行われるが、血気盛んな男の子が『暴風軍団』に志願すると言って親と大喧嘩になったというような話を耳にする。子どもじみた憧れもあれば、武勲を上げれば労働党員になれるという思惑もあるのだろう」
北朝鮮では16歳で徴兵検査を受け、大学や専門学校に入学しない男子は17歳で軍隊に入る。8年という長い時間を軍隊で送るのなら、戦場で華々しく戦いたいという少年の気持ちは理解できる。どうやら、北朝鮮の派兵は、お題目だったスローガンを湧き上がる闘志に変えてしまったようだ。
1月22日付米紙ニューヨーク・タイムズは、米国防省関係者の話として、「北朝鮮は被害を補うため、今後2カ月以内に追加派兵する可能性が高い」と報じた。おそらく金正恩氏は、冬季訓練で鍛えた兵士たちをロシアに送るだろう。次の段階では、ロシアに続々と入っていった70ミリ自走砲を使った砲兵戦を演じるかもしれない。
それはトランプ米大統領による和平攻勢の前に、1ミリでも占領地を拡大したいロシアにとって強い援護射撃になる。そのようにして数年にわたり、幾度も派兵を繰り返すうちに、戦訓を共有した朝鮮人民軍は、東アジア最強の軍隊に変貌していく――。これこそが、金正恩氏が目指す当面の目標なのではないか。