2025年4月26日(土)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2025年3月7日

 同社は、元請け業者を通じて、附帯作業費の支払いと運賃値上げを要請し、作業中の破損は荷主側の保険で対応するように求めた。しかし、荷主の理解は得られなかった。そこで同社は、その日のうちに保管していたパレットや空袋を荷主に戻し、修理代は、元請けとの交渉で折半とし、それを支払い、この運送業務から撤退することを決めた。「2024年問題」や、後述するトラックGメンの発足などで、風向きが変わってきていたことが、この決断を後押ししたという。

運賃は上昇するも売り上げは低下

 2024年以降、物流現場を歩くと、運賃の値上げ、附帯業務の削減、荷待ち時間の縮小などを求めた、実現してもらったとの変化を運送会社から聞くことが増えた。

 だが、運賃や附帯業務の交渉をした運送事業者のうち少なくない企業が、その結果売り上げが減ったと話す。「運賃は上がったんですよ。ただね、上げてくれた荷主からは、仕事をもらえなくなるんですよ。たいていの荷主は、複数の運送会社と契約しているから、運賃の高いところは使わなくなるだけです」という。運賃交渉で値上げを実現した結果、そこからの仕事がほぼなくなったというケースもある。

 別の運送会社は、社内の配車係から「社長、売り上げを上げるのと、拘束時間を減らして法令を遵守するのは、どっちがいいですか」と聞かれたという。この質問は、現状では両立が難しいことを示唆する。つまり、ワークルールを守らずに輸送すれば、売り上げを伸ばすことができるが、法令を守れば売り上げを減らさざるを得ない。むろん運賃を上げたり、生産性を上げたりすれば両立は可能だが、それは容易ではない。

 こうした状況のなかで、少なくない事業者が売り上げを減らしてでも、法令を遵守する方向に舵を切った。1日の拘束時間を遵守できないような長距離輸送をやめたり、長時間の附帯業務を課す仕事から手を引いたりした。長年受託してきた利益の薄い仕事を断る動きが広がっている。

 他方で、断られた仕事を引き受ける運送会社が、現時点では存在する。ある運送会社は次のように話した。

「うちが蹴った仕事は、近所にある〇〇運送が運んでいるって聞いてますよ。あそこはね、家族でやっててドライバーがみな取締役ってことになっているんですよ。だから労働基準なんて関係ない。そこと競争しないといけないから、大変ですよ」

 別の運送会社は「うちみたいな中小の会社が値上げするとね、大手の元請けに仕事をぜーんぶ持っていかれちゃうんですよ。元請けさんたちは、全国を営業して回っているでしょ。せっかく値上げを受けてくれた荷主の仕事を根こそぎ奪っていっちゃうんです。結局、俺たち中小は下請けに入るしかないのか、って考えちゃいますよ」と吐露した。

 また、こうした状況のなかで事業をたたむことを選択した会社もある。「うちみたいな零細は、もう無理でねぇ。労働基準が厳しくなるっていうし、ちょうどいいタイミングだったんですよ。ドライバーさんたちは、長く働いてくれたけど、今は人手不足でしょ。他に移ってもらえばいい、と思ったから」と語った。

矢野裕児、首藤若菜
ウェッジ
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