「出版文化を守るためなんて言えればいいんでしょうけどね。そんなんじゃないし。人に頼まれて、本を出して喜ばれて、食べていける。だから続けられるんでしょうね。今一番怖いのは、私が突然倒れることです。どこに何があるか私ですらわからないんだから、ほかの人がわかるわけない。お金すら引き出せない。ひとりでやっているということはそういうことです。後継者がいなければそれで終わりです。息子は親父のようになりたくないと思ったのか公務員になっちゃいました。そういえば岩田書院という出版社があったよね、で十分」
70歳までしかやらないと周囲に触れ回っているようだが、本を作らなくなった岩田は想像しにくい。というより、全く想像できない。近くの喫茶店で一服して、閉所恐怖症の人なら1分たりとも我慢できない椅子1つぶんの仕事場に戻っていく岩田の足取りは軽い。本に埋もれた空間が岩田の人生そのものであり、一番心が落ち着く場所なのだろう。
(写真:赤城耕一)
岩田 博(いわた ひろし)
1949年、東京都出身。大学で日本史を学び、卒業後、出版社勤務を経て93年に岩田書院を創業。以来ひとりで会社を切り盛りし、現在までに歴史、民俗学の専門書を中心に800点以上を出版。
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