これまでにも工学部の実態を自らの体験をもとに語ってきた、日本の金融工学のパイオニアでもある今野浩・東京工業大学名誉教授。今年6月に上梓された『工学部ヒラノ教授の事件ファイル』(新潮社)は、経歴詐称、セクハラやアカハラなど大学内で起きた刺激的なトピックスで構成され、工学部の裏側を知ることができる。たとえば本書では大学教授の海外出張の話が書かれている。国立大学での海外出張では、出張する都市により予め滞在費が決められている既算払いが標準。しかし、年々進行する円高の影響で実際の滞在費との間に差額が生じるため、その差額でワインを楽しんだという。
今回、今野教授に人生の転機となったスタンフォード大学への留学、そして自ら世界を相手に戦ってきた経験についてお話を伺った。
――かなり刺激的な内容で、個人的には「経歴詐称」について特に印象に残りました。
(今野 浩、新潮社)
今野浩氏(以下今野氏):アメリカのパデュー大学から当初は“教授”として招待されたのですが、学部長から届いた正式な招待状には“准教授”となっていました。しかし、当時、勤務していた筑波大学の学科主任には“教授”として招待されたと報告してしまったので、本当は“准教授”だったのですが、大学側には“教授”ということで出張しました。何かの弾みでバレるのではないかとビクビクしましたね。
――出版後の反響はいかがですか?
今野氏:この本を先輩や友人約20人に配って読んでもらいました。なかには「こんなことを書いて大丈夫なのか」という声もありました。しかし、私はもう定年で大学を辞めていますし、どこかに勤めているわけでもありません。
出版社経由で大学関係者からお手紙をいただくこともあります。そのなかには大変参考になったという意見やもっと詳しく知りたいといった意見もあります。また、地方の私立大学で、大学を誹謗したという理由で名誉教授称号を剥奪された人がいることを知らせてくれた方もいます。これから先は、名誉教授号を剥奪されないように注意する必要がありますね(笑)。