一方、内閣府の世論調査において「低炭素社会づくりのために許容できる1家庭当たりの負担額」については、国民の3分の2が、月額1000円未満(年換算1万2000円未満)と回答している。選択肢(3)以降において国民に求められる負担と、現実の国民の負担意識との間には、極めて大きな懸隔があることは明らかである。
今回の中期目標の選択肢に関しては、論理的かつ科学的な手法に基づき徹底的な定量分析がなされ、公平性の評価、実現可能性の検証、国民生活への影響等重要な側面について、高次の分析結果が示された。このような分析作業が、官邸という極めてハイレベルの場で実現したことは、大変画期的なことである。今後、国民各層の理解の浸透を心から期待したい。
日本単独の「苦行」は効果が小さい
これにより、「我が国は、温暖化問題で先導的役割を果たすべきであり、思い切った削減目標を掲げるべきである」等の情緒的議論が如何に論理性に欠け、また、「温暖化のための対策を講じれば、新たな成長の芽が出来るので心配には及ばない」等の楽観論が如何に根拠に欠けるか、十分国民の知るところとなろう。それに従い、この種の言説が世論に受け入れられる余地は、次第に狭まっていくであろう。
国際交渉において、各国政府が自国経済や自国民の利益を確保することは当然のことであり、国際貢献を目指す過程において負担の公平性を確保することは、政府の根源的責務と考えられる。
福田康夫前総理は、昨年のダボス会議において温暖化問題について、「目標設定に際しては、私は、削減負担の公平さを確保するよう提案します」、「公平が欠如しては息の長い努力と連帯を維持することはできません」と訴え、また、麻生総理も、今年のダボス会議において、「すべての国がそれぞれの責任に任じ、公平に努力を分担しなければ、問題は解決しません」と明言されている。
幸いにして、官邸の中期目標検討委員会は、単純な数値上の「削減率」の一致ではなく、各国の努力度合いを計測できる「限界削減費用」を一致させることで各国の公平性を確保する手法を提示した。政府関係者にあっては、困難は予想されるが、これら分析手法を戦略的ツールとし、粘り強く、かつ、したたかに交渉を続け、我が国の高いエネルギー効率が正当に評価された公平な中期目標が合意できるよう衷心から期待致したい。
最後に、温暖化問題に関する我が国貢献の基本的方向について述べたい。我が国は、CO2の排出規模では、現在、世界の4%程度であり、トップの米国、中国の5分の1にすぎない。
我が国は世界最高水準のエネルギー効率を有している。そのような我が国にとって、温暖化問題における貢献の基本的方向は、専ら「削減率」によって「自国」の苦行の程度を競うのではなく、国際社会とりわけ新興工業国家等に対する「技術移転」を通じた「国際社会」への直接的貢献にも求められるべきである。自ら最大限の努力をすべきは当然としても、前者の削減余地は限定的であり、一方、後者の可能性は無限である。
我が国産業界は、既に、国際連携の下、様々な事業を展開し、この可能性を追求してきている。今後、官民挙げての努力により、より一層の進展を期したい。これらを通じ、我が国は、国際社会において名誉ある地位を確保できると確信する。
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