他方、イラン嫌いのムハンマド・サウジ皇太子といえども、イランとの武力衝突が現実となれば、関わり合いたくない。彼は、サウジアラビアとUAEがイランの支援するフーシ派を打ち負かせなかったことを渋々だが認めざるを得ず、イランとの関係再開のための中国の仲介を歓迎した。
そして、ガザの衝突が始まる前からサウジアラビアとイスラエルとの関係正常化には冷ややかだったが、それは、皇太子が見返りとして求めたペルシャ湾地域への軍事的にコミットを米国とイスラエルがしなかったからだ。米国にはその意図がなく、イスラエルはその能力がない。
イラク戦争の苦い経験から、中東に米国が関与すれば米国は際限の無い紛争に巻き込まれる事になる、という批判があるが、トランプ大統領は、中東ではパワーポリティクスがまかり通ることを喜ぶべきである。長い間、中東では米国の敵は、米国がどれだけ強力か知っていて、自制していた。イスラエルは、ハマスがガザで、そしてヒズボラがイスラエル北部国境でイスラエルを攻撃するという大きな犠牲を払ってそれを学んだ。
イランが核武装すれば、中東のパワーバランスは、中国、ロシア、イランという修正主義者の同盟に有利に傾くであろう。この地域を守るためには米国に代わる勢力はいないのである。
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米国の狙いと限界
20年にアブラハム合意が発表された際、その経済的なメリットのみが喧伝され、それには大きな違和感があった。何故ならば、イスラエルとUAE、バーレーンとの国交樹立は、共通の脅威であるイランに対する軍事同盟という安全保障的な側面の方が大きいはずだからである。
上記の論説も、米国がペルシャ湾岸のアラブ産油国に対するイランの脅威を抑止して来たが、米国は、米国の代わりにこれらの諸国の安全保障、とりわけイランの脅威に対してイスラエルを関与させようとしていると見ており、この見方に同意する。
オバマ政権以来、米国の中東戦略は、イスラエルの安全保障に対するコミットメントは続けるが、その他の中東から出来る限り手を引くというものであった。21年、バイデン政権がアフガニスタンから撤退し、22年から23年の1年間で中東の米軍将兵は、1万人削減された。その傾向にストップを掛けたのは23年10月のハマスのイスラエル奇襲攻撃である。