保護者が二の足を踏む状況
40代の父、山田公太さんも、少年野球と親の立ち位置に疑問を抱えてきた。
「僕は野球未経験です。基本的な技術の指導はできないので、自分の子どもの自主練習に付き合うことはありますが、人の子に教えるのはおこがましいと思っています。だけど、僕も野球は好きなので、子どもが野球をしている姿は見ていたいと思って、チームの練習には頻繁に見に行っていました。すると、『審判やってください』とか、『コーチになって一緒にやりましょう』とお願いをされる。これが一番のストレスでした」
公太さんは、積極的に監督やコーチを買って出る保護者を否定するつもりはなく、むしろ感謝をしている。
「子どもと一緒に野球がしたい、と思っている保護者にとっては、大変なこともあるけど、充実した週末だと思います。子どもたちの練習をサポートしてくれることにも、すごく感謝もしています。けれど、チームに入部することで全ての保護者が参加を半ば強制されることに問題があると思います」
公太さんは子どものとき、地元のソフトボールチームに入りたかった。しかし、母親が色々と理由をつけて入れてくれなかった。ミニバス(バスケットボールの小学生チーム)なら入っていいと言われ、ソフトを断念した苦い記憶がある。
なぜ、ソフトはダメだったのか。ずっと気になっていたことを、大人になってから打ち明けられた。
「ソフトも少年野球と同じで、親のコミュニティーが大変だと聞いていたから、やらせてあげられなかった。ごめんね」
公太さんが小学生時代だった昭和は、まだまだ専業主婦の家庭も多かった。それでも、当時から、すでに一部の保護者からは、少年野球を取り巻くコミュニティーの人間関係は敬遠されていたのだ。
当時の日本で、子どもが野球をやるなら、地元の少年野球チームしか選択肢はなかった。実際、多くの子どもたちが白球を追い、甲子園やプロ野球選手という夢を追いかけた。少年漫画も野球をテーマに扱う内容が多く、スポ根や熱血指導も青春の1ページを彩った。
しかし、時代は変わった。全日本軟式野球連盟によると、2024年度の小学生の学童軟式野球チーム数は8680で、15年前から約4割減っている。ピーク時の1980年度の2万8115と比較すると、約3割にまで落ち込んだ。
日本全体の少子化だけで片付けられず、関係者も「大谷選手の活躍で野球の関心が高まっているのは追い風ですが、保護者の方が、子どもを少年野球に入れることには二の足を踏むという話も耳にします」と、親を取り巻く環境が影響しているとみている。
古い体質が残るチームは多い
公太さんはかつて、息子が所属するチームに“風穴”を開けようとしたことがある。監督とつながりのある県外の強豪チームとの試合を実現させようとしたのだ。
「同年代の強いチームとの対戦は刺激にもなるはず」
監督や他の保護者も賛同してくれた。しかし、父母会で提案すると、長くチームの世話役を務めてきた70代の代表から「そういう遠征は前例がない」と一蹴された。
あれだけ試合をやってみたいと盛り上がっていた監督や保護者も反論することなく、その代表の意思に従う雰囲気に絶望した。
以前から、バッティング練習に時間を割かないのに、試合で打てない子どもたちを叱るようなチームの方針への不満があった。
公太さんは覚悟を決めてメールを送った。
「試合数が少ない」
「保護者と指導者のコミュニケーション不足や指導方法に不満がある」
丁寧に説明したつもりだったが、代表からの返信はなかった。