「チームへの思いも冷めてしまい、子どもには申し訳なかったですが、練習から足が遠ざかりました」
もちろん、すべての少年野球チームがそうではない。代表がチーム運営を円滑に運べるようにサポートしたり、保護者同士の関係が良好だったりするチームも数多くある。中には、練習方法に工夫を凝らしたりし、その様子をSNSで積極的に発信しているチームもある。
公太さんは言う。
「いまの時代には、SNSを通じてたくさんの情報が発信されていて、その中から良いものを取り入れていけばいいと思うのですが、そういう意見をいうと、私の息子がいたチームでは、野球経験者ではない自分のような意見は聞き入れられず、『かき乱すな』という空気になってしまいました」
優子さんも「入ったチームや学年によって、方針や保護者の雰囲気、カラーも全く違います。『少年野球チームガチャ』です」と話す。
新たなリーグの誕生
近年、新たな運営スタイルの少年野球チームが注目を集めている。
指導に罵声や高圧的な指導の完全禁止などを掲げるチームが各地で誕生し、つながりを広げている。
チームによっては保護者の負担軽減の観点から、父母会を組織せず、練習の手伝いも不要としている。理念に賛同したチームは今年3月、新たなリーグ「インフィニティ・ベースボールリーグU-12」をスタートした。
全員出場を原則とし、目先の「勝利」や「強化」よりも、子どもたちの「挑戦」を優先する。チームによっては、定員待ちになるほどの人気ぶりだ。募集から数カ月で北海道から九州まで44チーム(3月25日現在)が加盟した。
中心となってリーグを立ち上げた「練馬アークス・ジュニア・べースボールクラブ」(東京)代表の中桐悟さんは「短期的には100チームの加盟を目指しています。加盟チーム数が増えることで、我々の理念が少年野球のニーズとして高まっていることがより可視化されると思っています」と話す。
みんなが少年野球を楽しめる環境を
公太さんの理想はさらに鋭角化し、少年野球チームの「アカデミー化」「スクール化」を提言する。息子は実際、少年野球チームと併行してスクールに通った。
「地域とボランティアによる指導が、令和の時代には合っていないと思います。野球をうまくなりたい子や、それを応援したい親もいれば、野球を楽しくやれればいいという親や子もいます。地域で縛ってしまうことで、様々な子どもたちが集まり、代表や監督がボランティアでやってくれていることへの遠慮もあって、親は自分の意見を言いにくい雰囲気になってしまいます。
それならば、野球の技術、子どもとの接し方のプロが他の習い事のように教えることが望ましいと思います。親が負担する月謝は高くなりますが、ストレスを考えると、アカデミーのほうがいいですね。もちろん、これまでの運営を続ける学童チームがあってもいいとは思います。大切なのは、少年野球に選択肢を持たせることです」
公太さんの息子は、中学では親の負担が一切ないチームを選び、公太さんはストレスを抱えることなく、子どもの野球を応援することができている。
少年野球がネガティブに報じられていることには、「周りの保護者も週末の少年野球を楽しんでいる。記事そのものが、少年野球のイメージを悪化させている」と否定的な保護者もいる。たしかに子どもの成長を身近で見届けることができる環境は少年野球の魅力でもあるが、一方で、少なくない保護者が不満を抱えていることも事実だ。
和人くんはその後、自宅から少し離れたチームに誘ってもらい、この春からは中学でも野球を続ける予定だ。優子さんは今回の取材を受けた後、和人くんに聞いた。
「ほんとはあのとき、野球を続けたかった?」
和人くんは首を横に振った。
「あのチームで続けていたら野球人生が潰れていたと思う」
その言葉を聞いて救われた。
優子さんは少年野球そのものを否定するつもりはなく、和人くんが少年野球をやってよかったと思っている。
「チームを通して、たくさんの友達もできました。努力する大切さを学び、人間的にも成長できました。だからこそ、少年野球をみんなが楽しめる多様な環境が整っていってほしいと願っています」
※この記事はWedge(ウェッジ)とYahoo!ニュースとの共同連携企画です。