
ヒュー・スコーフィールド、パリ特派員
「信じられない」。マリーヌ・ル・ペン氏は3月31日、小声でこの一言を口にしながら、怒った様子でパリの裁判所を後にした、
フランス極右政党「国民連合(RN)」の前党首は、欧州連合(EU)議会の議員だった2004年から2016年にかけて、公設秘書の給与を党の活動資金に流用した罪に問われていた。
パリの裁判所はこの日、ル・ペン氏に有罪判決を言い渡し、5年間公職に立候補することを禁じた。言い渡しより前に、ル・ペン氏は法廷を後にしていた。この判決を受けて、ル・ペン氏が2027年のフランス大統領選挙に立候補することはほぼ確実に不可能となった。
裁判官が判決全文を読み上げるのを待たずして、RNの前党首は、自分の政治生命が危機的な状況にあると認識したのだ。 控訴しても、一審判決の執行は猶予されない。彼女が公職に立候補することは実際に、かつ直ちに禁止される。
判決では禁錮4年(うち2年は執行猶予)も言い渡されたが、控訴中は保留される。
しかし、彼女の政治的計画は終わった。
信じられないというル・ペン氏の思いは、現在の状況に照らせば、おそらくもっともだと言えるだろう。
このような究極の制裁を裁判所が科すなど、結局のところは、そんなことはできないし、あり得ないだろう――というのが、これまでフランス政界全体でほぼ確立していた共通認識だった。
そう考えていたのは、ル・ペン氏の支持者だけではなかった。政敵も同じ意見で、極左のジャン=リュック・メランション氏から、中道のフランソワ・バイル首相、右派のジェラール・ダルマナン法相までが一致していた。
だが、その人たちは全員間違っていた。裁判官は、法律は法律だと言ったのだった。
当該の法律は最近、公金の不正使用に対する罰則を非常に厳しくした。そのように変えたのは、今やその適用に不平を唱える政治家らだった。今の事態はあなたたち政治家の自業自得だと、裁判官は明確に告げたことになる。
ル・ペン氏がこの結果を予測できなかったのは、おそらく事態を甘く見ていたからだ。RNは明らかに、備えが全くできていなかったように見える。
判決後の緊急会議では、党首らがジレンマに陥っていた。
2027年大統領選にル・ペン氏が立候補する可能性がまだあるかのように、党首らは言い続けるのか。
理論上は、立候補の(わずかな)可能性はまだある。彼女は控訴手続きを開始した。控訴審は日程が早められ、年内か2026年初めに開かれる可能性がある。判決は同年春に出されるだろう。
控訴審で一審と違う判決が出れば、立候補資格停止の期間が短縮されるか、完全に解除される可能性がある。その場合、彼女は立候補できる。しかし、その可能性は低いと考えざるを得ない。
それとも党首らは、代替案で進むべきだろうか。ル・ペン氏に代わる大統領候補として、RNのジョルダン・バルデラ党首を指名するという案だ。
今後の見通しとしては、そちらの方がより現実的かもしれない。ただ、あまりに急いでバルデラ氏に切り替えるのは不穏当だろう。そもそも、すべての党員が彼のファンというわけではない。
その後、判決の日の夜までに、党は腹を決めた。ル・ペン氏はテレビに出演して戦う姿勢を示し、政治の舞台から退くつもりはないと述べたのだ。
ル・ペン氏は判決を、裁判官の「政治的」決定で、「法のあり方に対する違反」だと非難。2027年大統領選の投票までに名誉が回復されるか、少なくとも立候補資格停止が解除されるよう、迅速な控訴審を求めた。
ル・ペン氏は、「私を信じるフランス人は何百万人もいる。私は30年間、不正と闘ってきた。最後までそうし続ける」と述べた。
勇ましい言葉だが、現実には先行きは非常に不透明だ。そして、答えの出ていない疑問がたくさんある。
たとえば、今回の判決はRNへの投票にどう影響するかだ。
短期的には、判決に対する抗議の声が上がり、党の支持が高まることが予想される。なぜなら、今回起きたことは、ポピュリスト右派が国の「体制」の犠牲になっているというRNの主張に、ぴったり当てはまるからだ。
RNに投票しそうな人の中で、ル・ペン氏のことを、EU議会の資金を使って違法に党に資金提供したと真剣に非難している人はいない。そうした人たちは皆、事実上すべてのフランスの政党が過去に、同様の不正手段を用いてきたと知っている。
同様に、大統領選への立候補禁止という「過酷な」処罰は、名誉の印として受け止められるだろう。これは、権力に立ち向かっているのは彼女だけだと、証明するものだと。
しかし長期的には、支持の急増はそれほどの勢いを得ないかもしれない。結局のところRNにとっては、ル・ペン氏が大きな財産なのだ。百戦錬磨で感傷的で猫好きで、タフな物言いの、もう長いことがんばってきた女性として、ル・ペン氏は支持者から愛されている。支持者は誰もがル・ペン氏を、身近で旧知の知り合いのように感じているのだ。
バルデラ氏も人気はあるが、まだ29歳で、ル・ペン氏の代わりになるとは考えにくい。ル・ペン氏が本当に2027年大統領選に立候補できないなら、RNは有権者へのアピール力を大きく失うことになる。
確かなのは、ローラン・ヴォキエ氏やブリュノ・ルタイヨー氏といった、RN以外の右派の大統領候補と目されている人の多くが、バルデラ氏が立候補すれば自分たちにとって大きなチャンスになると考えているということだ。
もう一つの未知数は報復だ。
ル・ペン氏は依然として国民議会の議員で、議会最大の125議席の勢力を率いている。これまで同氏は、過半数議席のないまま奮闘するフランソワ・バイル首相に対して、寛容だった。
そのような日々は終わったのかもしれない。
RN本部では、今さら誰かのために何かをする必要などあるのかと、そういう話になるだろう。どうせなら一気におしまいにしてはどうかと。