
ロンドンの人気観光名所には、大勢のバスカー(大道芸人、ストリートミュージシャンなど)が集まり、さまざまな芸を披露している。しかし大音量で同じ曲を何度も何度も繰り返し演奏するのは、その場で働く人たちにとって「心理的拷問」のようなものだとして、ロンドン市内の裁判官が行政に対応を命じた。
ロンドンのシティ治安判事裁判所のジョン・ロー地区判事は3月末、観光名所レスター・スクエアで同じ曲を大音量で繰り返し演奏するストリートミュージシャンを規制するよう、地元行政当局ウェストミンスター・カウンシルに命令した。広場内に事務所のあるラジオ会社「グローバル・ラジオ」の請求を受けてのもの。
グローバル・ラジオ側は、連日のあまりの騒音のためスタッフの一部が戸棚に避難して仕事をする羽目になっていると主張していた。
訴えについてロー判事は「プロ用機材によって音量を大幅に増幅された」コンサートが、事務所の窓の外で連日行われているようなもので、その環境での勤務をグローバル・ラジオのスタッフが強いられていると認めた。
判事は、「音量が主な問題ではあるが、一部の演奏が何回も繰り返されることや、その演奏の質が劣っていることも、迷惑の程度を明らかに悪化させている」と付け加えた。
判事は公判で、同じ音を繰り返し鳴らすというのは「違法だが効果的な心理的拷問の技術として、広く知られている」だと述べた。
判決後、レスター・スクエアに近いセント・マーティンズ・コートでレストラン「コハ」を経営するファディル・マケドンシさんは、「あのレベルの演奏技術で、同じ曲を毎日毎日、何度も何度も無理やり聞かされるのは、私たちの生活に影響を及ぼしている」と話した。
マケドンシさんによると、騒音のせいで子供たちが眠れなくなっているという。対策として二重窓を設置したが、自分も家族も「窓を開ける勇気はない。そんなことは無理だ」と話した。
マケドンシさんは、大道芸人の一人に音楽の音量を下げるように頼んだことがあるものの、どういう反応が返ってきたかは「口にするのもはばかられる」と話した。
マケドンシさんは当局に何度も苦情を訴えたが、誰も話を聞きに来なかったという。
レスター・スクエアの近くにある娯楽施設「ヒッポドローム」のサイモン・トーマス会長は裁判で証言し、ミュージシャンたちが同じ数曲のセットを繰り返すことと、裁判官が「ひどい演奏」と呼ぶもののため、周囲に響くのは「拷問」のような騒音になっていると話した。
別の証人は、楽器演奏よりも歌がひどく、特に音程が外れているときはさらにひどいと主張した。
ロー判事は、「長年にわたる苦情ややりとりにもかかわらず、カウンシル(行政区)は迷惑行為を止めるために行動しなかったが、行動したとしても全く効果がなかった」と判断を示した。
ウェストミンスター・カウンシルは、「ウェストミンスターのストリートエンターテインメントの活気ある伝統は、何十年もの間多くの人々に愛されてきた。パフォーマーが、この伝統に引き続き貢献できるようにしつつ、住民や会社や店舗への迷惑を最小限に抑えるよう、両方のバランスを追求し続ける」とコメントした。
カウンシルはさらに、昨年9月以降、21件の違法行為で7人を起訴し、「レスター・スクエア内外を含め、無許可の大道芸人から定期的に機材を押収した」と述べた。
BBCは グローバル・ラジオにもコメントを求めたが、同社はコメントを出していない。