
アメリカの保健福祉省は1日、大規模な人員整理を行った。同省の大規模な再建計画が進むなか、数百人の連邦職員がこの日、解雇を通達され、建物の玄関で入館を止められた。
今回の人員整理には幹部クラスも含まれるほか、傘下の食品医薬品局(FDA)や疾病対策センター(CDC)にも影響がある。
保健福祉省トップのロバート・F・ケネディ長官は先週、職員1万人を整理すると発表。早期退職を含め、全体の職員数を8万人から6万人に減らすと述べた。
ドナルド・トランプ大統領は就任以来、顧問のイーロン・マスク氏と共に、連邦政府の効率化を進めている。
保健福祉省は、CDCやFDA、健康保険制度「メディケア」や「メディケイド」を統括するCMSなど13機関を監督している。予算は1.8兆ドル(約270兆円)に上る。
米ホワイトハウスは先週、FDAでフルタイムの職員3500人、CDCで同2400人を整理する計画を発表。さらに、国立衛生研究所(NIH)でも1200人を整理しているとした。
トップ幹部や専門家も解雇
職員らは1日午前5時ごろから、解雇の通達を受け始めた。
CDCの環境保健科学部門に10年勤務していたプレストン・バートさんは、日の出前に、自分を含む同部門全体の職員が解雇されるという電子メールを受け取った。
この部門には数百人が所属しており、33州の保健部門と連携し、環境保健データの収集や、水銀中毒などの危険情報の公表の支援などをしてきた。
バートさんらは2週間前、核や放射線関連の事故に対応するための訓練に参加した。バートさんによると、そうしたスタッフ全員が解雇されたという。
「いま核関連の災害が発生したら、誰が専門家として呼ばれるのか?」とバートさんは問いかけた。
バートさんは自らの解雇に驚かなかったが、オフィスに出勤し、入館証をスキャンできずに解雇を知った職員もいた。
職員らは混乱と混沌(こんとん)のなか、建物に入るため外で長い列を作って待っていた。
再編成で解雇されたトップ級の幹部には、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のジーン・マラッツォ所長もいた。NIAIDはアメリカの新型コロナウイルス対策を主導してきた機関で、マラッツォ所長はアンソニー・ファウチ氏の後任だった。
マラッツォ氏を含む幹部数人は、アメリカ先住民にヘルスケアを提供する米インディアン衛生局への異動を通知されたと報じられている。幹部らは、この新しい役職を受け入れるかを2日までに決めるよう求められた。
ロイター通信によると、連邦政府の鳥インフルエンザ対策に関与していたFDA職員も解雇された。アメリカでは鳥インフルエンザの発生により卵の価格が急騰しているほか、牛や人間への感染例が、公衆衛生当局の懸念を引き起こしている。
一連の削減計画は、アメリカが過去10年間で最悪の麻疹(はしか)の流行に見舞われている時期に実施された。
民主党のナンシー・ペロシ前下院議長は、トランプ政権のこの計画が「最も脆弱(ぜいじゃく)なコミュニティーに直接的な害を与え、アメリカをより病気にする」と、ソーシャルメディアに投稿。「議会の同僚と協力して、これらの短絡的で無責任な削減に対抗する」と述べた。
ケネディ長官の「アメリカを再び健康にする」計画の一環として、保健福祉省は28機関・部門を新たな15機関に統合する。これには、新設される「健康なアメリカのための管理局」も含まれている。
ケネディ氏は一連の変更を発表する際、同省は「全体として非効率的」であり、削減によって「官僚的な広がり」を取り除くと述べた。
保健福祉省は声明の中で、これらの削減によって納税者に年間約18億ドルの節約が見込まれると述べた。
同省は、公衆衛生予算の削減も行っている。2月には、州や地方の保健部門が他の目的、たとえば精神衛生や依存症、麻疹や鳥インフルエンザなどの感染症の発生に使用していた、新型コロナウイルス対策期の資金110億ドルを撤回すると発表した。
ワシントン州や首都ワシントンを含む25州は1日、この資金削減を理由に政府を提訴した。
上院の健康、教育、労働、年金委員会を率いている共和党のビル・キャシディ議員(ルイジアナ州)と無所属のバーニー・サンダース議員(ヴァーモント州)は、保健福祉省の「再編案」を説明するため、ケネディ氏に10日の公聴会で証言するよう求めた。