2024年11月26日(火)

Wedge REPORT

2009年5月26日

 金持ち優遇批判をただの感情論、と切って捨てるつもりはない。保有資産が多い人だけに恩恵を設けるのは税の公平性を損ね、経済的な格差を拡大する側面は否めない。だが、それだけで重要な政策をやめてしまっていいのだろうか。

 「高齢者の余剰貯蓄を召し上げたいなら、相続税の大幅増税をすればいいではないか」という声もある。しかし、そうなれば多くの「金持ち」は資産を隠し、税負担が軽い海外に逃がそうとするだろう。

 自国からの富の逃避を防ぐため、すでにスイス、カナダ、オーストラリア、スウェーデンなどは相続税を廃止しており、移転先はいくらでもある。余剰貯蓄を吸い上げるどころか、手の届かないところに逃がしてしまう結果になりかねない。

 そもそも「金持ち」の明確な定義すらなく、議論の前提となる国民の所得すら、誰もきちんと把握できていない。これではまともな議論などできるわけがない。金持ち優遇批判が感情論に終始し、批判を受ける側も当座の取り繕いしかできないのは、このためだろう。

 この結果起きたのが、昨年から今年にかけての定額給付金をめぐる迷走だ。政府・与党は当初は定額減税を検討したが、「それでは所得税を払っていない低所得者への恩恵がない」という声が出て、給付金へと形を変えた。麻生首相はさらに「高所得者が給付金を受け取るのはさもしい」と述べ、給付金に所得制限を設ける方針を示していた。

 しかし、所得を把握せずに所得制限を設けるのは、やはり無理だった。議論は壁に突き当たり、「首相は給付金を辞退すべきか、もらうべきか」といったあらぬ方向に脱線していく。結局は国民全員に給付する悪名高き「バラまき」となったのはご承知の通り。全員に配ることで、金持ち優遇批判も踏まえた公平な措置のように取り繕うしかなかったわけだ。

公正公平で失われる国民全体の利益

 金持ち優遇批判が政策をもみくちゃにした例は、ほかにもある。

 貯蓄を投資に向かわせて株式市場の活性化を狙った証券優遇税制も、規模が圧縮されて使い勝手が悪い制度に改変されそうになった。その後の株価低迷で改変は取り消されたが、以前の制度に戻しただけで、拡充は少額投資など、金持ち優遇批判に配慮した中途半端な内容にとどまっている。

 購入分を相続税の課税財産から免除する代わりに、金利がつかない「無利子非課税国債」も同様だ。無利子で国が資金を調達できる有効策として、これまで何度も発行が検討されたが、いまだに実現していない。


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