ブラジルは短期的には、米国への大豆、トウモロコシ、食肉の輸出減少によるギャップを埋めるために中国への輸出を増やすかもしれない。ブラジルのシンクタンク関係者は、ブラジル政府は、1つの大きな貿易相手国に依存しないよう常に非常に慎重であり、ブラジル議会が不公正な貿易慣行に対する報復措置として、政府に大幅な新たな権限を与えたが、これはトランプ関税に反撃するための手段であるが、中国に対しても使用可能であると指摘した。
ラテンアメリカ諸国は、いずれの味方をするかよりも、貿易の多様化を望んでいる。チリは地域主要国の中で中国への依存度が最も高いが、最近、ボリッチ大統領が新たな輸出市場を開拓するためにインドを訪れたのは偶然ではない。また、ブラジルは食料の供給確保に不安を抱く湾岸諸国との貿易を追求し、コスタリカは現在、アジアが主導する包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)への加盟を目指している。
最後に、トランプ政権は、重要な鉱物の供給や低コストの工場の提供によるラテンアメリカの協力を得られない限り、中国の台頭を減速させ、米国の消費者の需要を満たす見込みはほとんどないことに気付くことになるだろう。
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全体的な流れは中国に有利
トランプの政策に対するラテンアメリカ諸国の反発や不満を利用して、中国が同地域における影響力をさらに拡大することを懸念する見方が西側メディアの主流であったが、フィナンシャル・タイムズ紙の在ブラジル論説委員のストットは、この論説で、短期的にはそのような傾向が強まったとしても、長期的には域内諸国がこれ以上中国に依存するようにはならないいくつかの理由を論じている。
ストットの主張の根拠は、それなりに一理はあるが、全体的な流れは中国に有利な方向に向かっており、ストットの見方はやや楽観的に過ぎるように思われる。
確かに、パナマが一帯一路からの撤退を表明したことは、ラテンアメリカ諸国に対する重要な警告であり、これら諸国には米国か中国のいずれかを選ぶことは避け、また過度な中国依存を望まないという立場はあろう。他方、米側からはこれら諸国が望む協力や支援は期待できず、米国を過度に刺激しない範囲で中国との関係強化を図る動きを防ぎ得ないであろう。
貿易面では、今後の米中貿易戦争の動向にもよるが、米中貿易から締め出される輸出品目が中国・ラテンアメリカ貿易全体を拡大する効果を持つ可能性がある。他方、近年はラテンアメリカと中国の間で貿易摩擦も生じており、ブラジル、チリ、コロンビアによる中国の鉄鋼に対する反ダンピング関税、また、中国側による牛肉の輸入についてのセーフガード調査や、植物検疫による輸入規制などが懸案となっている。これらは、貿易抑制効果を持つとともに、両者間の貿易関係緊密化の象徴であるともいえる。
