ドイツも欧州も、今回認められた財源の使用をはじめとして、メルツの大胆な行動を必要としている。彼が首相としてどのように統治するか、どのように自党の支持を確保し、SPDとの争いをマネージするかは大きな重要性を有する。
前任のショルツ政権の優柔不断は政権自身の崩壊を招いただけでなく、欧州の政策決定を妨げたので、他国の首脳はメルツの協力姿勢、特にマクロン(ショルツとの関係は良くなかった)との協力への姿勢を熱心に探ろうとするであろう。DAX(ドイツ株価指数)の推移はメルツが変化に向けたダイナミックな力となるとの市場の期待を示唆しており、メルツはこの期待を裏切ってはならない。
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失敗すればAfD伸長か
上記の社説は、メルツが与党からの造反のため一回目の投票で必要な票数に達せず、二回目の投票でようやく選出されたことが、新政権とドイツにとっての打撃となり、このダメージは新政権の成功、実績によってしか回復できないと論じている。
ただ、連立与党の議席(328)が半数(315)を13議席上回るだけで、新政権は「大連立」とは言っても実態は「小・大連立」で、政権基盤が脆弱であることは選挙後から明白だったのであり、今回の出来事はこうした脆弱性が早くも露呈したということであろう。それゆえ、新政権が「出鼻をくじかれた」ことは間違いないが、過大に騒ぎ立てることは適当でなく、新政権が脆弱性を抱えていることを冷静に認識しておく必要がある。
新政権の重要課題が、経済、移民・難民、外交・安全保障(ウクライナ、対米関係、欧州連合〈EU〉外交など)であることはほぼ一致して指摘されており、メルツ以下、CDU/CSUは「政治の転換」を掲げて選挙戦を戦ったが、上記社説の指摘の通り、連立交渉では全体としてSPDに押し込まれた(因みに、閣僚の配分ではCDU/CSU10、SPD7となっており、得票率に比してSPDがやや優遇されている)、あるいはCDU/CSUが重視する政策が薄められたとの見方がかなり有力である。
こうした事情から、世論調査では新政権への期待値は低く、加えてメルツ個人の人気、評価も選挙前から一貫して低いことから、メルツが主張する「政策の転換」には早くも疑問符が付いた状況となっている。