2025年6月17日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月30日

 5月6日にドイツ連邦議会においてメルツ首相が2回目の投票でようやく選出されたことについて、5月11日付けフィナンシャル・タイムズ紙は「メルツの不安定なスタート」と題する社説を掲げ、生じたダメージは今後の良い仕事、実績によってしか回復されないと論じている。要旨は次の通り。

(LinusYoungSung/gettyimages)

 メルツの時代は不安定なスタートを切った。前政権の内紛と漂流の後、もっと一貫し、意欲的なリーダーシップを求めるドイツと欧州の双方にとってメルツの登場は再スタートとなるはずだったが、1回目の投票の失敗で大失態となった。2回目の投票で選出されたとは言え、メルツは今回の出来事がメルツ時代を特徴付けるものとならないようにする必要がある。

 彼は他の欧州のリーダーに比べても、欧州の安全保障と競争力を強化するという二重のチャレンジに見合った行動をとる用意があるように見える。メルツは欧州で最も親・欧米関係であるが、同時に欧州が米国への依存を減らす必要を明言している。

 また、彼はドイツ経済界に対して、中国とのビジネスについての厳しい真実を直言している。さらに、彼が選挙前の公約を破って、基本法上の「債務ブレーキ」を緩和したことは、重要なことを実行する力があることを示している。

 それだけにメルツへの議会の支持が紙一重であることは問題である。1回目の投票の失敗は議席の52%しか持たない連立政権の脆弱性と、困難な問題(例えば移民、予算)を扱う際の造反への弱さを浮き彫りにしている。首相選出は秘密投票であるので造反議員が誰かは不明であるが、彼らは無謀な行動によってメルツの権威とドイツのイメージを大きく損なった。

 新政権はインフラ、経済テコ入れ、防衛への支出を大幅に拡大しようとしており、債務ルールについてのメルツの変節は党内一部の不興を買ったが、SPDとの連立協議のブレイクスルーにつながった。他方、その後の連立協定は経済政策面での野心が不足している。

 メルツは今回の打撃を乗り越える必要があるが、メルツのリーダーシップにはもともと疑問が呈されていた。選挙後は、AfDへの支持が引き続き高まる一方で、メルツ個人への支持率も党への支持率も下降している。


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