他方で、「進歩」を掲げた「信号連立」が3年足らずで瓦解した後、今回の大連立は民主的政党が国内外の諸課題解決に取り組んで結果を出す最後の機会であり、これが失敗すればAfDがもっと伸長するのではないか、との危機感は広く共有されている。このように新政権の前途は平坦ではないが、連立協定のタイトル「ドイツへの責任」が示すとおり、その責任は重い。
外交・安全保障の3つの変化
最後に、連立協定の外交・安全保障の部分について何点か指摘しておきたい。第一に、長年、浮かんでは消えていた「国家安全保障会議」が首相府に設置されることなったことは重要な変更である。これまでは首相と外相が異なった政党から輩出されていたため、権限の蚕食を恐れる外務省の反対で実現しなかったが、今回、ほぼ60年振りに首相、外相の双方をCDUが押えたため可能となったとされている。
第二に、中国について連立協定が「中国の行動によってシステム上のライバルとしての要素が前面に出て来たと認識せざるをえず、我々は一方的な依存を低減し、経済的なディリスキングを追求する」としているのは、現実の変化を踏まえて2021年の「信号連立」の連立協定よりもさらに踏み込んでいるが、他方で、21年協定にあった南シナ海・東シナ海の問題や台湾の国際機関への参加問題への言及は含まれていない。
第三に、日本については、「豪州、日本、ニュージーランド(NZ)、韓国はドイツとEUにとって価値を共にする緊密なパートナーであり、これら諸国との包括的な戦略的関係を深化する」と記述されている。21年協定と比べると、「包括的な戦略的関係」の部分は新しい用語であるが、他方で、21年協定の「日本との政府間協議を開始したい」との記述は政府間協議が実際に開始されたこともあってか、今回は含まれておらず、日本への言及は一文のみとなっている。