「雨やんだね。入るなら、今しかないかもしれない」
11月25日、午後4時。千葉県柏市某所─。待機していた事業所をあとにして小誌取材班が向かったのは、柵に囲まれた深さ約3メートルの溝だ。
腰に安全帯を装着し、長靴を滑らせないよう注意しながらはしごを伝って溝を降りると、目の前に真っ暗なトンネルが現れた。同時に、その奥から「ザーッ」という水流の音が絶え間なく聞こえてくる。
これが、本物の下水道管──。
でも、私たちの足元には水たまりはあるものの、イメージしていた下水は流れていなかった。
「ここは『越流管』といって、豪雨などで一定量以上の雨水が流れた時に、雨水で希釈された汚水を大堀川へ放流するための管です」
柏市上下水道局下水道工務課主事の中島愛子さんが案内してくれた。
管の中は真っ暗だ。ヘッドライトの明かりを頼りに進んでも、時折、クモの巣の糸が顔にまとわりつく。くるぶしが浸かる深さの水たまりを、足をはわせるようにして歩き、水流の音が聞こえる方へ向かった。
やがて突き当たりに差し掛かると、堰の向こうに茶色く濁った水が流れていた。白い紙が浮かんでいる。トイレットペーパーだ。
「あれが合流管です。雨水と汚水が一緒になって、下水として処理場へ流れていきます。私たちは日頃、あの中で仕事しています」
こう話してくれたのは、千葉県松戸市に拠点を構えるサンケン工事部長の大河原智男さん。下水道の仕事に携わること29年。経験豊富な大ベテランだ。
「詰まりの原因になるので、下水道の使い方には注意していただきたいのですが……。下着類や指輪、腕時計、さらにはコンドームなど、あらゆるものが流れ込んできます。中には、雨水用の側溝に不法投棄された自転車だってある。
合流管や生活・産業排水などの汚水を受ける汚水管にはネズミやゴキブリが常時います。雨水管の中にはウナギが泳いでいたこともありました。海や沼から遡上してきたのでしょう」
