感覚として近いのは『底なし沼』でしょう。カーブの多い道路で車が渋滞するのと同じように、水の流れが遅くなるところでは汚物がたまりやすい」
しかし、汚物がたまりやすい場所であることが元々分かっている時には、どうするのか。酸素ボンベを背負おうにも、マンホールから中へ入る時に邪魔になるはずだ。
「そういう時は、『エアラインマスク』を着けます。ガスマスクのような見た目で、口の部分からホースが延びており、それが地上までつながっている。地上の空気を吸いながら、地下で働くのです」
「そうは言っても、やっぱり最初大変だったのは『臭い』との闘いです。十数年前、下水道管更生の担当になった初日、調査のためにマンホールを開けたら蒸気に顔を呑まれ、その臭いだけで、数日間は腹をくだしてしまったよ」
成田さんは笑いながらそう話したが「でも、一番大変なのは、住民の方から理解を得ることだ」と吐露した。どういうことか。
地図に載らない仕事
それでも続けている理由
「工事中には騒音が出るし、多少の臭いも発生する。交通規制をかけて迂回路を案内しても『ここを通せ』と言い詰められる。『どこの自治体の仕事だ?』と問われて『柏市の仕事です』と答えると、『じゃあ柏市民から苦情が出るような仕事なんてやめてしまえ』と言われ、正直『やってらんないよ』と思ったこともあります」
大河原さんも口を開いた。
「確かに、周りからあまり評価も認識もされない仕事だし、命の危険も伴う仕事なので、『本当にこの仕事を続けていていいのか?』と自問自答した時期もありました。
それでも、下水道がなければ、トイレも使えない。手も洗えない。ご飯の支度さえできない。災害時の復旧対応では『休まず働いてもらってありがとう』と感謝されましたが、その存在の大切さに気付けてもらえるのはうれしい」
成田さんも頼もしく語る。
「やめたいという思いはない。むしろ、自分たちはいい仕事をしていると心から思う。今の工法は、短期間で工事を終えることもできるようになっており、住民にかかる負担も少なくなっている。
下水道の仕事は、目に見えない。地図にさえ載らない仕事だ。まさしく、縁の下の力持ち。私には、下水道こそが最も重要なインフラだという自負があります」
