これまで側溝やマンホールの上を気にもとめずに歩いていたことを恥じる気持ちでいると、背後から注意を促す声があがった。
「また、雨が降り始めました。早めに撤収しましょう」
事故の危険は常にある
下水道特有の過酷な環境
柏管更生有限責任事業組合所長の成田和男さんにそう言われてその場を後退すると、下水道管の壁に空いている「穴」から微量の水が流れ込んでいることに気付いた。
「この穴は、道路脇の排水溝につながる『取り付け管』です。雨がここに流れてきます」
そう説明してくれた成田さんには、忘れられない経験がある。
「かつて、作業中に、地上で雨を観測した監視員から『退避』の号令がかかったので、20~30メートル先のはしごまで急ぎ足で移動しました。すると、作業員が順番にはしごに手と足をかけて、最後の一人が上がりきった途端に、ほぼ満水の量の雨水がドッと流れてきたんだ。
それまでの水位は確かに20~30センチ程度だった。でも一瞬にして、1.8メートルある口径のうち、1.5メートルくらいの水位に上がった。間一髪だった。大口径の管の中での作業は、常に雨に注意しなくちゃいけない」
大河原さんもこう続ける。
「私も、そういう〝鉄砲水〟に鉢合わせした経験は何度もあります。最近は特に、ゲリラ豪雨が多い。仮に、今作業している柏市南部が晴れていたとしても、北部に雨が降れば、その水が全て下水道管を通じて流れてくる。作業に支障が出るどころか、命の危険と常に隣り合わせの仕事なんです」
それだけではない。
2025年8月、埼玉県行田市の下水道管内で起きた作業員4人の死亡事故は、硫化水素の発生に起因するものと推測されている。大河原さんが解説する。
「管内にある高低差によって下水が滝のように流れているところや、管のくぼみによって水が滞留しているところなど、硫化水素が発生しやすい条件はほぼ特定できています。
でも、そうした条件は、ある程度事前に分かっていることが多い。
最も怖いのは、下水道管の中にたまった汚物を踏んだ時に発生する硫化水素です。これが原因で、過去に何人も亡くなっている。
地上から測定しても、数値としては当然検出されない。問題ないと判断して、中に入ってから大変なことになることもある。
