安全と信頼の調和はますます重要に
カドミウム汚染米のように健康被害に直結する食品分野やGMのように倫理観や自然観と結びつきやすい分野では、たとえ科学的に安全を確保できたとしても、プロセスへの信頼がなければ安心は得られない。他方、原発処理水のように健康被害とは多少距離がある分野では、科学的根拠に基づく安全の確保が安心への道筋となりやすい。ただし信頼がなければ安全を信じることができないという原則は同じである。
食品中の化学物質や放射能、あるいは遺伝子操作といったリスクは五感では捉えられない。だからこそ、私たちは客観的な安全を追求するプロダクトの合理性と、その安全を社会が受け入れるための信頼を醸成するプロセスの誠実さの両方を必要としている。
プロセスを重視する考えが広がりを見せる背景には、リスクを想像し備えるという空想力だけでなく、現代社会における潤沢な食料供給という側面も無視できない。食料の入手が困難な状況下では生産プロセスにまで注意を払う余裕はなく、プロダクトとしての食料確保が最優先されるだろう。その意味でプロセスの安全への要求は食料が豊かであることの証左とも言える。
そして途上国が豊かになるとともに、この風潮は世界に広がることが予測される。しかし、この空想力は、時にGMに対する過剰な不安のように、科学的根拠から離れた感情的な忌避感を生み出すこともある。
環境問題や持続可能性といった地球規模の課題解決に向けて、安全と信頼の調和がますます重要になる。EUの事例のように、社会の目標達成のために両主義を戦略的に統合し、丁寧なリスクコミュニケーションを通じて社会的な安心を築いていく。
それが、科学技術と共生し、持続可能な未来を目指す私たちに求められる姿勢であろう。「安心=安全+信頼」の実現は、より良い社会を築くための重要な鍵となるのだ。