2025年6月16日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年6月5日

 秋田県産のブランド米「あきたこまち」から食品衛生法で定める基準値を超えるカドミウムが検出され、数百トンにおよぶコメが廃棄処分となった。

 昨年から始まったコメ不足により価格が前年比で2倍以上という前代未聞のレベルまで高騰している中、基準値を超えたコメを正常なコメと混ぜてカドミウム濃度を下げれば安全であり、コメの供給に役立つのではないかという声もある。いわゆる希釈によるリスク管理である。

 しかし食品衛生法第6条は危害物質を含む食品は、販売・流通してはならないと定め、基準値を超過する食品が含まれていた時点で、その混合食品も基準不適合と判断される。例えば農薬やカビ毒で汚染した事故米を通常の米と混ぜて販売した2008年の三笠フーズ事件では、最終的に基準値以下の安全なコメでも違法とされ、厳しい処分が科された。

(Hakase_/gettyimages)

 他方、福島第一原発で発生したトリチウムを含む処理水は大量の海水で希釈され、飲料水基準より大幅に低くした上で海洋に放出されている。これは国際原子力機関(IAEA)の監視のもとで安全性と国際基準への適合が確認されているとして容認されている。

 カドミウムやトリチウムを含むすべての化学物質が人体に与える影響は、用量反応関係の原則で決まる。例えば食塩(NaCl)を一度に200グラム(g)摂取すれば死ぬ。毎日20g以上を継続して摂取すれば高血圧、脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まるが、1日数gであれば、一生の間毎日摂取しても健康被害はない。量と摂取期間が作用を決めるのだ。

 この原則に立てば、カドミウムの基準値を超えるコメであっても、それを正常なコメと混合することで基準以下になれば、科学的には安全である。同じ希釈によるリスク低減の考え方が処理水では許容されるにもかかわらず、カドミウム米では否定されている。この差の原因は何だろうか?


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