2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月9日

 その第一はウクライナにおける「特別軍事作戦」で勝利を確実にすることであったが、二番目に取り上げたのが「外部からの脅威」等に対処するための「中期的な軍隊の近代化」である。しかもこれは、「今後10年以内に欧州でNATOとの軍事紛争が起こる可能性」に備えるものと位置付けられている。

 それゆえ、ウクライナ戦争のロシアが望む形での終結を許すことは、結果的に、ロシアによる「中期的な軍隊の近代化」努力を助長することになるだろう。

中国だけではないイラン、北朝鮮の脅威

 第二に、ロシアの戦力回復と中国等の動向が同時進行している。

 カヴォリ米欧州軍司令官は本年4月3日の上院軍事委員会公聴会において、ロシア軍が、「多くのアナリストの予想を上回るペースで再編・増強を進めている」とした上で、ロシアの中国、北朝鮮、イランとの「戦略的パートナシップ」の問題をとりあげ、「複数の脅威に同時に直面する可能性が高まっている」と指摘している。

 上記IISSの分析では、ロシアがNATOに対する大きな軍事的脅威になるタイミングは「もっとも早ければ」27年とされている。これは、主要西側諸国の情報機関等の評価と比べるとかなり早いタイミングであるが、27年というのは中国が台湾に侵攻する準備を整える時期として、これまでも米国政府・軍関係者が繰り返し言及していた年である。本年3月には台湾国防部も、毎年恒例の軍事演習を本年は「27年の台湾侵攻」を想定したシナリオで行うと発表している。

 欧州におけるロシアの新たな挑発行為と、アジアでの中国による台湾侵攻のような深刻な事態が近接して発生した場合、米欧日による軍事的対応は大きな困難に直面するが、これにさらに中東におけるイランを巡る情勢、また朝鮮半島における北朝鮮による大掛かりな挑発行為が同時発生する可能性も念頭においておかなければならない。

 今ロシアの行動を抑えて戦争目的を達成させないようにすることが、以上のような「複数の脅威に同時に直面する可能性」を少しでも軽減することに役立つ。

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