2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月9日

 ウクライナを脆弱にし、ロシアを大胆にするような和平交渉は、ワシントンが直面する世界的な挑戦を増大させる可能性がある。

 ロシアは、紅海で米艦艇を攻撃し、世界の海上輸送を混乱させたフーシ派武装勢力や、アフリカのサヘル地域、スーダン、イエメンのグループを支援してきた。ウクライナでウクライナ軍の能力を制限する合意が成立すれば、ロシアは軍事力をこうした不安定化作戦の強化に振り向けることができ、米国の利益を損なうことはほぼ確実だ。

 同様に、勢いづいたロシアは、中国、イラン、北朝鮮にとってより強力なパートナーとなる。ロシアがウクライナ支援の見返りにこれらの国々に提供した兵器は、それぞれの戦闘力をより強力にし、協力関係は制裁などの対抗手段の有効性を低下させている。例えば、ロシアの中国との軍事連携は、インド太平洋における中国の強硬姿勢の強化に貢献している。

 プーチンは、トランプの退任後は米露が再び対立する状況に陥ると予想している。モスクワはいまこの機会を利用して、将来の米国大統領が覆すことが難しい利益、例えばウクライナの従属状態やNATOの集団防衛へのコミットメントの信頼性を損なうような利益を得ようとするだろう。

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ロシア軍が対処する10の課題

 本件論説は、ウクライナ戦争がロシア優勢で進展する場合に米国が払うことになる代償につき警鐘を鳴らしたものだが、大きな代償を払うことになるのは米国だけではない。西側諸国の全体、あるいはさらに広い地域に及ぶ可能性がある。それが如何に切迫しているかを示す状況を二つ挙げて、本件論説の補足としたい。

 第一に、ロシアは「今後10年以内に起こり得るNATOとの軍事紛争」への備えをすでに開始している。

 国際戦略研究所(IISS)は本年5月の報告書(Defending Europe Without the United States: Costs and Consequences)で、ロシア軍は「もっとも早ければ2027年にはNATO同盟諸国、特にバルト諸国に対し大きな軍事的脅威になる可能性がある」との評価を公表した。ただしこれは、①25年半ばまでにウクライナ紛争が停戦合意を経て終結する、②同時期までに米政府がNATOからの脱退手続きを開始する意向を示す、との前提に立った上での評価である。

 ロシアがウクライナ戦争における勝利だけではなく、将来的なNATOとの軍事衝突を想定した軍事建設に取り組んでいることに留意する必要がある。昨年12月16日、ロシアのベロウソフ国防相は国防省拡大幹部評議会において、ロシア軍が対処すべき10の課題を取り上げて詳細なスピーチを行った。


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