開発をリードした第二事業部サブマネージャーの岩本雄平(36歳)は、まず企画担当者とともに、ユーザーの不満をリサーチした。ある調査ではふとん乾燥機が「買って使わない家電」の2位にランクされており、その最大の要因が「収納」だった。構造的にかさばる製品であり、使用後のマットの折りたたみなども面倒がられていた。
引き続き行った調査では、押し入れやクローゼットに収納する際のスペースについて、大半のユーザーが容認できる幅寸法を探った。結果は「13センチ」であり、最終的にこの製品の幅寸法ともなった。ただ、岩本は「スリムというだけではインパクトに欠ける」として、容易にマットがたためる仕掛けも考えることにした。在来品で収納するまでにかかる時間を計測すると1~2分程度だった。だが、マットから空気を出してたたむ手間など「時間以上にストレスを感じる作業」だと分かった。
対策の有力候補となったのが、「心棒」方式だった。マットの左右両端に長さ20㌢ほどの樹脂製の棒を、それぞれ8本ずつ縫い込んだものだ。適度な棒の重みで扱いやすくなり、たたむ時間は40秒程度に短縮できた。かなりの自信をもって部門長へのプレゼンを行ったが、評価は「こんだけ?」と手厳しく、逆に「収納は“ワン・ツー・スリー”の数秒くらいでできるように」と、重い宿題が出された。チームでは針金状のバネを内蔵して瞬時に開くテントの機構などの応用も検討したが、うまくいかない。
ここまでは、マットとホースが必要という「既成概念からまったく抜け出せなかった」と、岩本は振り返る。そこから脱したのはマットを使う以上、「数秒での収納は無理」との自身の結論に至ったからだ。かといって打開策が見えたわけでもない。苦悶の日々を送るうち、岩本はふとんそのものが、マットのように袋状になっていることに気付いた。つまり、掛けぶとんと敷きぶとんで作られる袋状の空間に人は寝ているというわけだ。「ふとんそのものをマットと考えよう」─チームがマットの呪縛から逃れた瞬間だった。
ホースの先に吹き出し部を付け、ふとんの中に置いて性能を確認すると、十分やっていける数値が出た。だが、まだホースはあった。この時点でのプレゼンでは、またしても部門長から「なんでホース付けてるんや」と、きつく突っ込まれた。半信半疑で本体と吹き出し部を直結した状態で、再び試験した。すると、吹き出し部の形状やファンなどの改良を加えれば大丈夫という結果だった。