日本での実用化は?
安全性については、今年度中に厚労省が安全性評価制度の方針を公表するとみられる。おそらく、遺伝子組み換え食品(GMO)や食用昆虫と同じ「新開発食品(新規食品)」として扱われる可能性が高い。その場合、個別に安全性評価が必要となり、培養肉を販売したい企業が厚労省に安全性評価を申請、食品安全委員会がリスク評価を行い、その結果を踏まえて厚労省が承認判断することになる。
審査にかかる期間は半年から2年程度。ただ、日本では前例がない食品ということもあり、初期の数例は慎重な審査が見込まれ、早くても2~3年はかかるとみられる。
すでに複数の企業が非公式に厚労省と事前相談を進めていることが報じられており、骨格さえ決まれば審査はスムーズにいくかもしれない。こうした状況を踏まえれば、日本での実用化は早くても3年以上先ではないか。
イタリアは禁止
日本と同様に培養肉が未承認のイギリス(ペット用は承認)やスイス、韓国でも承認に向けた動きが加速する。一方で慎重な国もある。その代表が「スローフード」発祥の国イタリアで、23年に培養肉の生産・販売を禁止する法律を成立させている。
連邦レベルで販売を承認しているアメリカでも、フロリダ州やアラバマ州では製造や販売を禁止している。禁止は、「本物の牛肉を食べる文化を守る」(フロリダ州知事)ためのようだ。
ただ、そもそも培養肉は、既存の肉と敵対するものではない。開発は、未来の食料不足解消や畜産業で排出される温室効果ガスの削減、動物福祉の改善など、さまざまな社会問題の解決が目的だ。
反対派は、「不自然」「本物の肉を守るべき」などと主張しているが、社会問題解決のための代替案は示していない。培養肉を食べるかどうかは、消費者一人ひとりが判断すればいいだけなのに、国や州をあげて禁止する必要があるのか理解に苦しむ。
もちろん、畜産や漁業など既存の産業を守りたいという反対派の思いは分からないでもない。培養肉が主流となれば、これらの産業がなくなる可能性があるからだ。
かつて移動手段として主流だった馬車は、自動車の登場であっという間に姿を消した。新技術の普及や人々の価値観の変化で、これまでさまざまな産業が消えていった。
培養肉は未来の食卓で既存の肉に取って代わるのだろうか。今後の行方を見守りたい。