罰則規定により起こり得る危険
警察庁の権限と責任の問題にも疑問がある。先ほども申し上げたように、国権の最高機関は国会である。にもかかわらず、具体的な反則金額などは警察庁が決定するというのは、やはり主権者の主権行使が及ばない感じが残る。その一方で、警察庁としては、柔軟に対応するとしているが、現在の「ネット世論」は容赦がなく、それこそ、歩道通行している自転車を白眼視して「過剰なまでに車道に押し出す」ような行為に走りかねない。
残念ながら、現在のネット世論というものは、「健全なる常識」という理念を共有しておらず、実定法を杓子定規に運用して、形式主義から人を断罪する性質を持っている。そう考えると、社会的な合意がないままに法規の制定と罰則規定を進めたというのは、順序が違うと言わざるを得ない。
このままでは、警察庁はネット世論と、実態としての自転車と歩行者と自動車の複雑な共存という現実の間で、立ち往生しかねない。では、本当に警察庁がそのように現実に即した柔軟性で一貫しようとしているのかというと、実際の各都道府県の警察本部としては、やはり厳し目の啓蒙活動をすることになっている。仕方がない面もあるが、形式主義が蔓延する危険性は残る。
そんな中で、やはり重大な危険性が無視できない。今回の立法により、また罰則規定の公表により、一番懸念されるのは次のような問題である。
「明らかに歩行者に脅威を与えていない自転車が、危険な車道を走行させられることで、自動車に加害の脅威を与えるだけでなく、実際に深刻な事故が発生する」
ということだ。例えば、現状の法規では16歳以上の保護者が、未就学児を乗せた場合には自転車の2人乗り、いや3人乗りのタンデム走行は認められている。そのような親子が、歩行者側からの「絶対に歩道を走ってはダメ」という「白い眼」に耐えかねて、危険な車道走行を強いられるとしたら、これは社会的な悲劇であると思う。
警察庁は、そのようなケースも想定して、柔軟に対処するというのだろうが、その柔軟にというのが「青切符」を切るかどうかだけでは十分ではない。青切符と反則金というのでは、警察庁としての啓蒙活動については自転車ユーザー向けのものに限られる。
