2025年6月17日(火)

Wedge OPINION

2025年5月27日

 2024年4月から「働き方改革」関連法による時間外労働の上限規制がトラックドライバーに適用され「物流が止まる」と危惧された。しかし物流のひっ迫に伴う混乱は目に見える形では起こらず、物流「2024」年問題」は解決したかのようだ。だが物流の実態を分析すると、多くの問題はそのまま残されている。

物流問題の改善には、荷主の協力による荷待ち・荷役時間の削減が欠かせない(AFLO)

編集部(以下、──)「2024年問題」から1年。この間の変化は?

矢野 「2024年問題」を受けた政府の対策は、ドライバーが荷主の都合で待機する荷待ち時間やトラックに荷物を積み込むなどの荷役時間を削減させることだった。だが、国土交通省による24年4~8月のドライバーの1運行あたりの拘束時間に関する調査では、21年と比べて運転時間は約40分減少したが、荷待ち・荷役時間は横ばいだった。荷主企業でも一部の大企業では危機感を持ち、物流改革に乗り出しているところもあるが、全体としてはまだまだということではないか。

矢野裕児(Yuji Yano)
流通経済大学 流通情報学部 教授
横浜国立大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。工学博士。日通総合研究所、富士総合研究所などを経て現職。流通経済大学流通情報学部学部長、日本物流学会会長。共著に『物流論 第3版』(中央経済社)など。

田阪 中小企業が多く所属する日本商工会議所による24年7月の意識調査では、運送会社の87%が物流効率化に取り組んでいるか、取り組む予定となっている。だが、荷主企業ではそれが43%に留まり、何をすればいいか分からない、あるいは取り組む必要がないという回答が過半を占めている。

 この1年、大きな混乱はなかったが、その背景には24年は荷物の動き(荷動き)が鈍かったことが挙げられる。そのため、「『2024年問題』は杞憂に終わったのではないか」という世の中の風潮すらある。考えすぎかもしれないが、そういう方向にしたい人々がいるような気もする。

田阪幹雄(Mikio Tasaka)
NX総合研究所 リサーチフェロー
中央大学法学部政治学科卒業、日本通運入社。貿易研修センター(IIST : Institute of International Study & Training)卒業、米国日通勤務などを経て、日通総合研究所に入社。同社専務取締役、顧問を歴任し、現職。共著に『令和版 物流ガイドブック 概論編』(NX総合研究所)など。

首藤 24年4月以降のドライバーの労働時間を見ると、大企業の運送会社では明確に削減されたが、中小企業ではあまり変化がなく、二極化が起きている。また、政府は賃金を上げて家計の最終消費を伸ばそうとしているが、実現すれば荷物の量も景気と連動して増えるため、「2024年問題」のような事象が本格的に発生する可能性は十分にある。

首藤若菜(Wakana Shuto)
立教大学経済学部 教授
専攻は労使関係論、女性労働論。日本女子大学大学院人間生活学研究科博士課程単位取得退学、博士(学術)。山形大学人文学部助教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス労使関係学部客員研究員、日本女子大学家政学部准教授などを経て現職。著書に『物流危機は終わらない』(岩波新書)など。

矢野 荷動きの鈍さの原因として考えられるのは、景気停滞や物価高、コロナ禍による消費行動の変容などだ。トンベース(運んだ荷物の重さの合計)で見ても、トンキロベース(重量×距離)で見ても、日本の輸送量は今後、緩やかに減少していく一方だろう。ただ、日本の物流は「多頻度小口化」しているため、件数ベースで見た際にはむしろ増える可能性もある。

田阪 各種統計から、人口減少と自動化・省人化のスピードを比較すると、どう考えても人口減少の方が早い。そうすると、どこかで必ず「2024年問題」のような問題は再発する。「物流が止まる」という未来は決して絵空事ではない。


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