2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年5月27日

伸び悩む運賃・賃金と
「物流費の高騰」

首藤 それに対応するには、ドライバーの深刻な人手不足の解消が求められる。労働時間が減った分、賃金単価が上がらないと賃金水準は下落してしまう。統計上では賃金は少し上がってはいるが、まだ十分とは言えない。賃金を上げるためには当然運賃も上げないといけないが、なかなか上がらない。

矢野 24年末には一時的な物流の逼迫によってスポット価格が上がったこともあったが、国が提示している「標準的な運賃」の8割以上の運賃を収受できている運送会社は約半分にとどまっているのが現状だ。

田阪 24年には「物流費の高騰」を理由に様々な企業で値上げが行われたが、本当に物流が原因なのか。日本ロジスティクスシステム協会が毎年発表している「売上高物流コスト比率」のうち、「2024年問題」の対象となる輸送費に限ると、売り上げの3%。一方、25年2月の日銀の企業向けサービス価格指数における「道路貨物輸送」の数字を見ると、前年比3%増に留まる。売り上げの3%を占める物流費が3%上がって、どうして2桁の値上げの主たる要因になるのか。「物流費の高騰」の実態はよく見定めるべきだ。

首藤 需要の変動やトラブルなどによって、貨物量には波が生じる。それ自体は仕方ないが、従来、貨物量減少やキャンセルによるコストは運送会社が一方的に負ってきた。

 だが、そもそも物流も電力のような社会インフラの一つなのだから、電力料金と同じように、基本料金と運んだ分に応じて発生する従量料金の2層体系とし、波動のコストの一部を荷主企業にも負ってもらう形にするのも一つの考えではないか。

 基本料金で運送会社が人件費や車両費などの固定費を賄えれば、物流の持続可能性は格段に高まる。一部の運送会社では固定費を回収するため「安くてもいいから運ぼう」となりがちで運賃低下が起きるが、2層体系にすれば防ぐこともできる。

田阪 国際海運の運賃では、基本運賃に加えて燃料費や為替などに合わせてそれぞれ変動する項目がある。日本の物流の料金形態について、改善する余地は大きいだろう。

 また、ドライバーの賃金上昇には運賃値上げも一つの手だが、荷待ち・荷役時間の削減あるいは解消ができれば、運賃の値上げ幅はかなり抑えられるのではないか。例えば、今まで1運行でドライバーが1往復しかできなかったものが、荷待ち・荷役時間を運転時間に充てることで2往復できれば、運賃をそれほど上げなくても賃金は上がる。そのためには荷主企業の協力が欠かせない。

 日本のトラックは荷台と運転台が分割されていない「単車」と呼ばれるタイプが主体だが、分割可能なトレーラーが普及している欧米では、荷主がトレーラーやコンテナといった〝ハコ〟に荷物を詰めて、ドライバーはそれを運び、荷台を切り離すだけという形だ。荷待ちも荷役もない。荷主の工場や物流センターの中で、荷主企業の社員ではないドライバーが荷物を詰めるなど、本来あり得ないことだ。国内でも一部の外資系小売業では、欧米型の物流が実現しているが、日本企業全体の動きにはなっていない。

矢野 日本のネックは荷役だろう。日本は流通全体が非常に多品種かつ少量のロットで動いており、商品の種類も非常に多い。例えばコストコなどの巨大店舗と日本の小さなコンビニでは、扱う商品数は大きく変わらないという。さらに日本の店舗は狭く、在庫を圧縮せざるを得ないため、それぞれの商品が必要になったらその都度発注し、小さい単位で運んでいるというのが実情だ。この状況では荷役の削減はなかなか実現できない。

首藤 我々日本の消費者は、非常に多くの種類から選ぶことができるが、この豊かな生活がドライバーの荷役を生んでいる、あるいは物流に負荷をかけている可能性があることについて、もっと認識すべきだ。流通面や生産面などを含めた社会全体での最適化を考える必要がある。


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