宅配便は全体の1%
物流問題の〝本丸〟とは?
──メディアの報道のあり方についてはどうか。
首藤 これまでの議論の通り、物流問題を解決するには荷主企業、そしてその先の消費者の意識改革と行動変容が欠かせない。メディアでは「2024年問題」が大きく報道されたが、「宅配便の再配達をなくせばいい」といったBtoCの関係性に偏り過ぎていた。だが、「2024年問題」の〝本丸〟は、BtoBの「一般貨物」である。この点を誤解してはならないだろう。
田阪 宅配便の取扱重量は日本の総貨物量に占める割合の1%程度で、残りは一般貨物だ。まずはここを消費者と荷主の方々に理解していただく必要がある。
首藤 もちろん、報道によって「2024年問題」への対策の必要性を認識する荷主企業は増えた。だが、特に中小企業ではコスト面から「分かっているけどできない」という声も多い。
矢野 これまで物流はコスト削減の対象としてしか見られてこなかった。だが、そうした認識のままでは物流問題は改善しない。荷主にとっても物流は単なるコストではなく、自社のビジネスを支えており安定供給に欠かせない存在であることを認識してほしい。
田阪 業界を代表して申し上げると、例えば「物流費は毎年、前年比5%削減」といったことを述べる経営者や企業が多い。削減ありきではなく安定供給のために「最適化」を目指すといった形に考え方を変えていくべきだろう。
首藤 26年からは、一定規模以上の荷主企業に「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化されるが、今後も荷主企業内での物流担当者・物流部署の地位向上は必要だろう。私たちもそうした人材を育ててきたかが問われている。
──我々は、労働者としては高い賃金を求め、消費者としては安い商品を求めたがる傾向がある。
首藤 私が専門とする分野の観点から言うと、労働者と消費者の権利や利益はどうしても対立することがある。ただ、日本の場合、圧倒的に消費者側が強く、労働者側の立場が弱い。私たち一人ひとりは労働者であると同時に消費者でもある。消費者としての立場を強めるだけでなく、労働者として自分たちの利益をより強めていく、高めていくという観点も必要であり、どちらか一方に偏り過ぎる状況は改める必要がある。
矢野 同感である。別の観点だが、かつてはメーカー主導型だった日本の流通は次第に顧客主導、マーケットイン型に変化し、多頻度小口物流、ジャストインタイム物流が出現した。だが、「時間どおりに届く」「小さい単位で動かす」といった面が独り歩きし、「計画的に動かす」という前提が忘れ去られてしまっている。「消費者が求めているから、1個でも持ってこい」「今日中に持ってこい」ということが当然のように行われている。行き過ぎた対応を見直さないと物流は破綻する。
田阪 米ウォルマートが活用している「CPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment)」などによって、欧米ではメーカー、ベンダー側まで業界の枠を越えて在庫情報が共有されている。
欧米式の方法を日本に落とし込むのは一筋縄ではいかないだろうが、中長期的にはどういった物流にすべきなのか、本質的な対策を考え、手を打っていくべきだ。そのためにも、まず、物流=コストセンターという従来の発想を改めることから始めるべきだろう。
首藤 2024年4月の規制は物流改革のスタート地点に過ぎない。物流の効率化・安定化の取り組みを今後も継続的に進め、中長期を見据えて、持続可能な物流のあり方を模索していかなければならない。(聞き手/構成・クロスコンテンツ室 木寅雄斗、本誌編集部 大城慶吾)

