危うい「全国一律価格」
地方にとっても大きな問題
──「2024年問題」による影響は都市部のみならず、地方にも及ぶ可能性がある。
首藤 長時間働くドライバーとは、その多くが長距離ドライバーだ。そして長距離ドライバーは、東京や大阪など大消費地と、地方の生産地とを結んでいる。つまり「2024年問題」をはじめ物流問題は、特に地方で深刻な影響が表出しかねない。
私は「2024年問題」によって長距離輸送からの撤退を決断した、いくつかの運送会社を見てきた。こうした動きから、地方の物流の持続可能性に黄信号が灯り始めているという危機感を、もっと多くの人が共有すべきだと感じている。
矢野 元々、加工食品・飲料系、生鮮食品系では長距離輸送が多い傾向があった。加工食品・飲料系は拠点を増やし、在庫することなどで対応できるが、野菜、果実、魚など生鮮食品系ではなかなか難しい。ここが最も影響を受けやすいだろう。
すでに、九州で野菜を積み込んでから東京の卸売市場で取引されるのは3日目の朝だったのが4日目の朝に延びたといったケースも出始めている。鮮度の点から価格が低下するのに物流コストが上がるといった問題に直面することになる。
また、生産地である地方も同様に消費地でもある。北海道では、大消費地である札幌やフェリー輸送の拠点である苫小牧などの地域以外ではなかなか野菜が回ってこなかったり、種類が減ったりしている動きも出始めている。今まで私たちは、全国どこに住んでいても多様な野菜、果物、魚などが食べられるという前提があったが、今後これが崩れてしまう可能性が高い。
加えて、全国一律価格も持続できないかもしれない。消費財については、メーカーと卸や小売りとの間では、商品価格と運送費が一体となった「店着価格制」で主に取引されていた。これは日本の商習慣として広く採用され、全国一律価格が実現していた。一方で、商品価格に運送費が含まれているため、運送費が上昇しても、商品価格に反映されないという問題がある。店着価格制が持続不可能となれば、地方では生鮮品以外も値上がりするかもしれない。
田阪 日本の物流は現在、トラック輸送に非常に偏っており、トンベースで90%以上を占める。
しかし、トラック1台にドライバー1人が必要な現在のトラック輸送が主流の物流では、人手不足に対応できない。中長期的には、幹線輸送は鉄道や内航船、フェリーなどの船舶へ移行していかねばならないだろう。ただし、現在の日本の鉄道輸送や内航海運のキャパシティーは非常に限られているのが現状だ。
首藤 私は、鉄道や内航船の現場の働き方改革にも関わってきたが、両者とも、トラック以上の人手不足に直面している。政府は10年間でモーダルシフト倍増を掲げてはいるが、労働の観点からは非常に厳しいのではないかと感じている。
矢野 モーダルシフトの観点からも、トラックを単車からトレーラーに転換していくことを政策的に後押しする必要がある。現在、ドライバーが同乗するフェリー輸送は伸びているが、同乗せずトレーラーだけを輸送することでドライバーの拘束時間をより削減できるRORO船輸送は伸びていない。
田阪 こうした異なる輸送手段を組み合わせた「インターモーダル」を実現するには、コンテナ化、そしてそのコンテナの規格統一が重要だが、現在コンテナの規格はまちまちだ。米国ではどこへ行っても高さ9フィート6インチ(約3メートル)のコンテナで統一されている。
矢野 インターモーダルによって、注文してから商品が届くまでのリードタイムが延びることも考えられる。荷主企業の理解も必要だろう。
