2025年12月6日(土)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2025年8月15日

教訓とするためにも必要な遺骨の収集

 海外で240万人が亡くなったとされ、これまで収集された遺骨は112万人分とほぼ半数に達している。日本政府は日本のために命を失った人々の慰霊に、最後の最後まで責任を尽くさなければならない。

 ただ、戦後日本の遺骨収集活動のなかでバシー海峡は忘れられていた。最大の理由は死者が海没死主体だったことだ。海没死の場合、深い海の底に遺骨が沈んでいたら、そこが永眠の場所と位置付けられ、遺骨収集は行われない。日本と台湾が正式な国交がないことも影響していたとみられる。

慰霊祭の日に行われた献花

 遺骨収集を担当する厚生労働省社会・援護局事業課に問い合わせみると、確かに9月ごろ、調査チームを派遣する予定だという。調査は委託先である「日本戦没者遺骨収集推進協会」が行う。

 同課は「現地で戦後、漂着した遺骨を埋葬していたという情報が寄せられたこと」で調査を決めたという。実際に遺骨掘り起こしが実現するかどうかはこの調査によって決まる。

 人骨が見つかったとしてもポイントになるのは遺骨の状態である。DNA鑑定の結果、日本人であるかどうか検証される。遺骨の状態は保存状態に左右される。同課によれば「海でも陸でも一定した環境にあるほど遺骨の情報が取りやすい」という。

 埋葬されて土中にあったらならば、そうしたことも期待できるかもしれない。海中の遺骨は、かつてトラック諸島で戦中の遺骨が回収されたことがある。

バシー海峡での戦没者の記憶を日本の教訓として残していく必要がある

 慰霊祭で渡邊崇之・慰霊祭実行委員長は「人間には二度の死があると言われる。肉体の死と忘れられる死だ。バシー海峡で亡くなった人々のことを後世に伝え、現在の日本の教訓にしていかなければならない」と述べた。忘れられないためにも、また遺族の気持ちの拠り所としても、遺骨が収集されるにこしたことはない。今回遺骨調査が実現し、遺骨が発見されれば海没死の死者たちに対する慰霊についても一石を投じる形になるはずである。


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