2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2014年5月20日

 そうこうするうちに、知り合いになった飲食店の人から「売り店舗が出た」という情報が舞い込んできたのが十軒橋商店街の酒屋だった。お店の壁にズラリと並ぶ酒瓶の棚は、その名残である。蔵元への伝手で特徴ある日本酒が手に入る。それを「どれでも半合400円」の低価格で提供している。カウンターだけ10席ということもあり、土日でもなかなか予約が取れない。

 不便な場所の小さな店でもやっていけるのは、固定費が安いからでもある。建物は1500万円、改装費用に850万円。地代は月4.5万円で「とりあえず80歳くらいまで」ということで、30年契約にして住居兼用とした。従業員は雇わず、「食べていけるくらいの利益が出ればいい」と割り切った。50歳代の起業は一見リスクが高そうだが、決してそうではないのだ。結果、開業以来、黒字が続いている。

 菅原さんは日経BP社時代、リタイアを控えた団塊世代を狙った雑誌『日経マスターズ』の取材・編集に携わった。そこで、会社人間一筋で来て、最後に「濡れ落ち葉」になった多くの人たちの姿を目の当たりにした。菅原さんは言う。「仕事をしながらでもいいから、会社以外にもう1つの世界を持っていることが大事だと思います」。

50歳から60歳までの貴重な10年間

 「収入の事だけを考えれば起業などしなかったでしょうね」と岡村進さん(53)は笑う。スイスの大手銀行UBSの日本法人であるUBSグローバルアセットマネジメントの社長を昨年6月で辞め、7月に人材教育のベンチャー企業「人財アジア」を創業した。外資の高給を惜しげもなく捨て去ったのは、日本に今求められている世界で戦えるグローバル人材の育成に自ら関与したいと思ったからだ。

大企業で勉強会の講師をする人財アジアの岡村進さん(撮影・松村隆史)

 昨年7月の起業以来、大企業の社内研修の講師などを買って出て、ちょっとした人気講師になっている。海外勤務や外資系でトップを務めた経験からグローバルに通用する人材とは何かを語る一方、資産運用を通じて培った「マーケットの視点」を売り物にしている。

 もちろん、企業研修が本当にやりたかったビジネスではない。来年には丸の内の若手ビジネスマンを対象にした「学校」の設立を計画している。会社が授業料を払うのではなく、自らのスキルアップのために自分で学ぼうとする若い人たちを集める場を作るのが狙いだ。また、高校生など若者への「おカネ」の教育などもボランティアベースで行っている。

 岡村さんは大学を卒業すると第一生命保険に入社。資産運用や人事管理を担当し米国での勤務も長かった。その後、友人に誘われてUBSに転職した。サラリーマンとしては間違いなく「勝ち組」だった岡村さんが「50代のリセット」を選んだのはなぜか。


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