2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年8月25日

 それでもインドネシアなど「ポスト・ベトナム」の国々を中心に外国人労働者の受け入れは今後も増えていくだろう。企業にとっては低賃金の働き手が確保できて助かる。私たち国民も安価な商品やサービスを享受できる。

 ただし、デメリットも存在する。

 その一つが日本人の賃金への影響だ。外国人労働者で人手不足が緩和すれば、企業は賃金を上げる必要はなくなる。また、外国人頼みが進む職種では日本人の働き手がさらに遠ざかる。隣の台湾の介護現場がそうであるように、日本でも「外国人しかやらない仕事」が生まれかねない。

外国人に頼る前に
日本がすべきこと

 外国人労働者へのニーズは、都市部にも増して地方で高い。そこで外国人誘致に向け、地方自治体が決まって口にする言葉がある。「多文化共生」だ。7月下旬の全国知事会議でもこう宣言されたばかりだ。

 「排他主義・排外主義を否定し、多文化共生社会を目指す」

 直前にあった参院選の結果、埼玉・川口市で問題になっているクルド人と地元住民との軋轢などを意識しての宣言だ。「多文化共生」は政府も唱えており、総務省が2020年に改訂した「地域における多文化共生推進プラン」には、具体策として「日本語教育の推進」、「相談体制の整備」、「留学生の地域における就職促進」などの言葉が並ぶ。こうした施策によって外国人労働者は地方へと集まるのか。前出・人材派遣会社のベトナム人社員に問うと、苦笑いでこう述べた。

 「『多文化共生』という言葉を知っている外国人は実習生や特定技能(外国人)にはいませんよ。彼らが重視するのは賃金です。(最低賃金を大幅に上回る)時給1200円を支払う食品関連の工場が山形にあるんです。不便な田舎でも大人気ですよ」

 とはいえ、賃金は簡単には上げられない。だから政府も自治体も「多文化共生」を前面に押し出しアピールする。だが、「共生」は日本人と外国人がともに意識を共有し、互いにメリットが感じられて初めて成り立つ。そもそも貧しい国からやってくる外国人であろうと、本音では同世代の日本人が魅力を感じない地域には住みたくない。日本人が嫌がる仕事は、できれば彼らもやりたくない。だとすれば、外国人に頼る前にやるべきことがある。日本人の若者が魅力を感じる国、住みたくなる地域をつくるための努力を惜しまず、他国に負けないレベルにまで賃金を引き上げていくことだ。

 「排外主義」に陥ってはならない。しかし「排外主義」が台頭する原因を直視せず、「多文化共生」というスローガンを唱えるだけでは問題は解決しない。外国人との「共生」の矢面に立つのは、日本人には人気のない団地、若者が去った地域で、経済的に恵まれない暮らしをしているAさんのような人たちなのだ。

 その声に耳を閉ざしていれば、「外国人嫌い」の日本人を増やすことになりかねない。それを最も恐れているのは、この国で真面目に働き、日本人と「共生」している多くの外国人たちなのである。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2025年9月号より
日本の医療は誰のものか
日本の医療は誰のものか

日本の医療が崩壊の危機に瀕している。国民皆保険制度により私たちは「いつでも、誰でも、どこでも」安心して医療を受けることができるようになった。一方、全国各地で医師の偏在が起こり、経営状況の悪化から病院の統廃合が進むなど、従来通りの医療提供体制を持続させることが困難な時代になりつつある。日本の医療は誰のものか─。今こそ、真剣に考えたい。


新着記事

»もっと見る