2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年8月25日

 7月の参院選では「外国人問題」が争点の一つとなった。欧米諸国では国論を二分して久しいテーマだが、これまで日本では選挙で争点となることはなかった。結果は周知の通り、外国人労働者や移民の受け入れの制限を主張する政党が大幅に議席を伸ばした。この選挙結果を見て、筆者には先日取材したばかりのAさん(男性・70代)のことが頭に浮かんだ。

「外国人嫌い」が増えるのを最も恐れるのは、日本で真面目に働く外国の人々だ(AP/AFLO)

 無職のAさんは大阪府の公営団地で1人暮らしをしている。団地は50年以上前に建てられた5階建てだが、エレベーターはない。40平米の3K、家賃は月2万円少々という安さだ。Aさんによれば、団地の住民は「生活保護の日本人高齢者、もしくは外国人ばかり」なのだという。

 Aさんの部屋の上の階にもしばらく前、南アジア出身の若い夫婦が入居した。夫は留学生らしく、アルバイトで帰りが遅い。帰宅後、午前0時を過ぎた頃に料理や掃除をする音がAさんの部屋に響いてくる。天井は部屋を歩くだけで振動が伝わってくるほど薄い。Aさんは音で不眠症に悩まされるようになった。

 夫婦の部屋を訪れ、午後10時以降は静かにしてくれるよう伝えたが、何度注意してもしばらくすると騒音が再開する。警官を呼び、注意してもらっても効果はない。Aさんが引っ越せば済むことかもしれない。だが、自らが被害者であると考えるとそれはしたくない。

 夫婦の妻の方は、夫の「配偶者」の資格で日本に滞在しているようだ。専門学校や大学に在籍する留学生は母国から配偶者を呼び寄せられる。留学生本人、配偶者ともに「週28時間以内」でアルバイトが認められるため、夫婦での出稼ぎに利用する外国人も少なくない。

 その妻がコンビニと飲食店のバイトをかけ持ち、週28時間を大幅に超える違法就労していることをAさんは突き止めた。すぐに入管当局に通報し、不法就労で摘発するよう訴えた。摘発されれば上の階からいなくなると考えたのだが、入管に動く気配はない。

 ある政党の支部も訪れ相談した。しかし「ウチは外国人を助ける側だから」と相手にしてもらえなかった──。そんな話を滔々と2時間にわたって私に語った後、Aさんは少し恥ずかしそうにこう述べた。

 「私ね、もともと外国人が嫌いというわけじゃないんです。昔、仕事をしていた頃は外国人とも仲良くやっていた。でも、今は外国人嫌いになりました」

 「外国人嫌い」は偏狭な「排外主義」に通じる。だからAさんは自らを恥じている。しかし私には、つましい暮らしを壊されたうえ、誰からも助けてもらえないAさんを責める気にはなれない。

Aさんの住む公営団地。不眠症に悩まされる日々という……(YASUHIRO IDEI)

 迷惑な隣人はもちろん日本人にもいる。とはいえ、相手が日本語でのコミュニケーションが取れない外国人の場合、憎しみが増幅しかねない。Aさんのような「外国人嫌い」が全国で増えているとすれば、外国人と日本人双方に不幸なことだ。原因は何なのか。


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