2024年6月20日(木)

Wedge REPORT

2014年5月21日

 結局のところ、2度シナリオは、実現可能性の乏しいものになったと言わざるを得ないが、さりとて、他のシナリオは詳しく分析されていない。これでは、残念ながら、現実的な政策決定の参考にはならない。

京都議定書に厳しい評価

 今回のIPCC報告で注目すべきは、出来の悪いシナリオではなく、これまでの政策の実証的な評価だ。

 温暖化対策について、環境経済学は、排出量取引や環境税などの形で「炭素価格を設定する」ことが重要としてきた。これを受けて、鳴り物入りで導入されたのが、京都議定書やEU排出量取引制度(Emission Trading Systems=ETS)である。だがいずれもIPCC報告では厳しい評価となっている。

 “京都議定書は、気候変動枠組条約(UNFCCC)が提供する目標を実現するための、最初の法的拘束力ある段階であった。だが、それは意図されたように成功しなかった。理由は、不完全な参加と遵守、京都議定書が存在しない場合にあっても発生したであろう先進国の排出削減に排出権を与えたこと(訳注:ロシアなどに過剰な排出権が割り当てられたことを指している)、過去10年間で急速に成長している途上国の排出量を規制しなかったことによる(「技術的要約」より)”

 EUでは、大がかりなETSが導入されたが、「効果は限定的」で、排出権の低価格は「構造的なものであり、対処することは政治的に難しいことが証明された」としている。

 “ETSは、排出枠が緩かったり、拘束力がなかったりしたために、期間中の排出削減の効果は限定的だった(「政策決定者向け要約」より)”

 “ETSは意図されたほどに成功しなかった。ETSは国境を越えた排出量取引が機能しうることを示したものの、近年の恒久的な低価格は、追加的な排出削減についてのインセンティブを与えることがなかった。……13年末の執筆時点において、過剰な排出権を取り除くことによって低価格の問題に対処することは、政治的に難しいことが証明された。……ETSは、政治的に実施可能にするために、排出削減の効果を犠牲にする形で実施された(技術的要約及び本文14章より)”

 IPCCは、低価格の問題に対処するために当局がとった様々な対応や、学界の提案についても詳しく言及している。だが、多くの方法は考案できるものの、排出枠を厳しく設定し直すことには、政治的な困難がつきまとうという現実が突き付けられた。

 なお、筆者が欧州の研究者と議論をすると、「諸問題はあるが、“制度的な慣性”、つまり官僚組織の肥大化や既得権益があるために、欧州からETSが消えてなくなることは絶対にないだろう」、との意見がほとんどである。これは日本にとっても重要な教訓であろう。


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