2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年9月11日

変質する在日中国人
日本人との〝軋轢〟も深刻化

 筆者は1979年の中国の改革・開放政策以降に来日した中国人を「新華僑」と呼んできたが、近年、「潤」してきた人々を「新・新華僑」と位置づけ、ウォッチしてきた。彼らは、かつて来日した人々のように、日本が好きで日本を選んだわけではなく、日本に強い関心や憧れがあるわけでもない。

 中国を脱出すること自体が目的で、とりあえず「安心、安全、コストが安い」日本を選択したという人が大半だ。在日中国人はそのボリュームの多さや経済力により、日本での存在感が増しているだけでなく、その内訳も従来とはかなり変質してきている。

 そうした中、最近では日本人や日本社会との〝軋轢〟が目立つ。

 例えば今年6月、東京・板橋区の中国人オーナーのマンションの家賃が、突然2.5倍に跳ね上がることが報道された。文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)により21年から行われている「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」は、博士課程に進学する学生の経済的な不安を解消するための事業だが、文科省によると、昨年度の博士後期課程の在籍者のうち日本人は6割、留学生は4割で、その最多は中国人だった。これを疑問視する声が国会で上がり、支援額のうち生活費は留学生を支給対象から外す方向に変更することになったが、SNS上では「日本人より外国人を優遇するのか」といった声が散見された。

 さらに、中国人による問題行動も日本人の対中感情の悪化に拍車をかけている。24年8月に東京・靖国神社の石柱に中国人がいたずら書きをした一件や、同年12月、奈良県など複数の地方自治体の議場に中国人インフルエンサーが無断で侵入し動画を撮影したりした一件、今年5月には、東京・練馬区で行われた「TOEIC」で中国国籍の大学院生が「替え玉受験」を行い逮捕された。また、外免切替制度を利用して日本の自動車運転免許を取得する人々が増え、埼玉県で小学生をひき逃げした一件もあった。

 こうした行為は日本人の感情を逆なでするものだが、怒っているのは日本人だけではない。筆者の知人であり、日本に30年近く住む中国人女性は「かつてのように、日本に憧れ、日本社会に溶け込んで暮らしたいと考えている人だけでなく、最近では様々な中国人が比較的簡単に来日できるようになり、信じられないような事件が起きている。私たちのように真面目に生きてきた中国人も日本人から白い目を向けられる。とても残念で悲しい」と語る。

 来日して20年近くになる中国人男性も「怒りを感じるとともに、私たちも同じ中国人なので、日本で肩身が狭く、暮らしにくくなる」と言う。日本で社会のルールを守って、真面目に生きてきた人々は怒りや憤り、そして不安を感じているのだ。

 軋轢が起きる背景の一つとして挙げられるのは、冒頭でも触れたように、日本人の想像以上に、在日中国人が増えていることだ。日本人は中国人を「一つの塊」として捉え、あらゆる層の中国人を同一視しがちだが、当然ながら、同じ中国人といえども、出身地や学歴、家族構成、思考などは全く異なる。中国共産党の党員もいれば、中国共産党と一切関係のない中国人もいる。

 彼らはSNSでも決してつながることはないが、日本人から見ると「同じ中国人」だ。自分の生活を守るため、日本でバラバラに生きているだけの彼らだが、約87万人に膨れ上がった人数に圧倒され、「集団で悪事を企んでいるのでは」と感じる日本人もいる。

 また、日本の制度や仕組みの多くは「暗黙の了解」や性善説を前提としているが、中国人をはじめ多くの外国人にとって漠然としたものは通用しない。抜け穴があれば制度を悪用する輩も、母数が多くなるほど増えるのだ。その結果、日本の制度設計の脆弱さが浮き彫りになった一面もあるのではないだろうか。


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