どれだけ農家を支援しているのか
世界の農業政策は、農産物価格と農家所得を切り離すことが主流となっている。このことを経済協力開発機構(OECD)のデータに基づいて見ていこう。以下の事例はコメではなく、農業全般についてのものだが、農業全般が良くなればコメの状況も良くなるだろう。
OECDのデータでは、政府が農家をどれだけ支援しているかを「生産者支援推計(PSE、Producer Support Estimate)」というデータで見ている。これは、「市場価格支持推計額(MPS、Market Price Support)」と「直接所得移転推計額」の2つの要素によって測られている。
市場価格支持推計額は、国内政策や貿易政策により国際基準価格よりも高い国内価格とすることで、消費者から農業生産者にどれだけ所得が移転されているかの額である。対する直接所得移転推計額は、政府による農業生産者への直接支払いのような予算支援額である。すなわち、生産者支援推計(PSE)=市場価格支持推計額(MPS)+政府による直接所得移転推計額である。
図1から3は日本、欧州連合(EU)、アメリカの市場価格支持推計額(MPS)、直接所得移転推計額(PSE-MPS)、農業総収入(以上金額)および政府による農業保護率(生産者支援推計PSE÷農業総収入)、国際価格との乖離率((市場価格支持推計額+農業総収入)÷農業総収入、いずれも%)を示したものである。ここで農業総収入とは、売上から費用を引いた農家の所得ではなく、生産額のことである。
日本の場合
図1の棒グラフに示されるように、日本の場合、1980年代、2000年代初期において生産者支援推計は400億ドルを超えていたが、2023年時点では214億ドルと半分程度にまで縮小している。この低下は主として、市場価格支持推計額の減少による。
農業総収入に対する生産者支援推計の比率も低下している。1980年代、2000年代初期では50%超であったが、2021年以降30%台まで低下している。
また、国際価格との乖離率は、2000年代初期までは45%超であり、国際価格から国内農業生産物価格が守られていたが、2020年代では20%前半まで低下し、国際価格との乖離が縮小していることが分かる。2020年代の乖離率の低下は2018年12月に発効した環太平洋連携協定(TPP)による加盟国間での関税の撤廃、削減の影響によるとみられる。

