2025年12月5日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年7月11日

 コメ問題を契機として、大規模経営、スマート農業、農産物輸出と、マスコミやソーシャルメディアで農業談義が絶えない。ただ、コメ以外の野菜作りや海外の農業についての報道はほとんどないため、一般の国民には農業全体の方向性は見えてこないのではないだろうか。

 筆者は、2025年2月にオーストラリアの野菜農家を中心に、オーストラリアの農業、とくにスマート農業を見聞する機会があり、日本の農業のあるべき姿についても、改めて考えさせられた。

オーストラリアの農家は経営マインドを持って一つの作業にも工夫を凝らす(筆者撮影)

 オーストラリアは大規模経営かつ輸出大国で知られるが、農業補助金が先進国の中でも格段に低い。そのため、スマート農業についても自らの経営に適したものとそうでないものを取捨選択して採用するというシビアな姿勢であった。その一方で、消費者の農産物を含めた国産志向がその農業を支えているのである。

 今回の訪問で日本の農業の方向性や地産地消にヒントを得られたので、リポートしてみたい。

品質を重視するオーストラリアの大規模農業経営

 「スマート農業は将来のこと。日本の方が進んでいるのではないか?」。オーストラリアでビクトリア州を中心に圃場を展開し、1500ヘクタール(ha)の経営規模を持つ農業法人Fresh Selectの現場マネージャーが意外な言葉を語った。

(出所)JETRO ホームページ

 ビクトリア州メルボルン市中心部から西南に車で40分ほど走らせると、一面広大な野菜圃場が続く地域がある。それは、北海道の帯広市周辺を彷彿させる。メルボルンは人口500万人を超え、シドニーと並ぶ人口の多さだ。

 このメルボルン郊外のウェリビーサウス地区は、約150戸の野菜農家が集まり、レタスやキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーなどを計3000ha以上の圃場で生産している。この都市近郊の野菜地域は、「メルボルンの食糧庫(Melbourne's Foodbowl)」と言われ、灌漑設備や道路網を完備している。

 この地域に代表的な野菜法人の「Fresh Select(フレッシュ・セレクト)」と「Fragapane Farms(フラガパネ・ファームズ)」がある(地図左側)。

(出所)グーグルマップを基に筆者作成

 Fresh Select社は、豪州全土に圃場を持つ大規模農業経営を代表する企業である。ウェリビーサウス地区では約150haを耕作し、レタスやブロッコリーなどをオーストラリア国内の大手スーパーマーケット向けに出荷している。従業員は海外からの労働者を含め150人規模に達する。

灌水中のカリフラワー圃場(筆者撮影)

 農場の現地マネージャーは「収穫はAIと機械を組み合わせるより人の手の方が繊細で、収穫ロスを抑えられる」と説明する。興味深いのは、アメリカのジョンディア社やニューホランド社製の大型機械が多く導入されている一方で、収穫作業はあえて人手に頼っている点である。

 筆者が日本のブロッコリー機械収穫機の写真なども見せたが、「一斉収穫ではロスが大きいのではないか?」との指摘だった。大きさの異なるブロッコリーを機械で一斉収穫をするのに懐疑的な見方だ。


新着記事

»もっと見る