2025年12月5日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年7月11日

 特に、「ミニブロッコリーの収穫など細かい作業は人にはかなわない」との主張だ。外国人労働者の中でも繊細な作業に適した人材が多く従事している女性スタッフに収穫を任せ、体力を必要とするキャベツの収穫は男性のスタッフに任せているという。人手作業についても「適材適所」の配置が実践されている。

ミニブロッコリーの圃場でのアダム現場マネージャー(筆者撮影)

 つまり、完全自動化による省力化よりも品質管理を重視する姿勢を貫いている。オーストラリアは最低賃金が時給24.10豪ドル(約2300円)と、世界でも高水準であることもあり、ワーキングホリデーの若者や近隣国からの季節労働者ら労働力が豊富だ。ただし、その中でも収穫は自動化でなく、「機械プラス人手」を選択している。

 将来的にオーストラリアも日本同様に労働力不足があることも考えて、AIとロボットの精度向上と費用対効果を見極めながら、ブロッコリーやレタスなどのAI付き自動収穫機を導入する方針という。

補助金に頼らない農業

 オーストラリアは1901 年の連邦成立以後、「農業を含め、未発展の国内産業を保護する目的で高関税や各種の国内補助」を行っていた(「オーストラリア:自由主義的な農業・貿易政策」農林水産政策研究所レビュー No.75, 玉井哲也, 2017年1月)のだが、1970 年代から保護・規制の削減・撤廃に動いた。「当初から市場志向で経済学的合理性に基づくという一貫した方針があった」という(同上)。

 オーストラリア政府の農業に対する補助金は、経済協力開発機構(OECD)によると、農家収入の約3.1%(2019~21年)である。OECD全体では、2020〜22年のPSE(生産者支援額)は農家収入(GFR)の平均15.2%。オーストラリアの政府支援額は他国に比べると大幅に低く、農家は、自立した経営が求められている。

 こうした市場経済に任せた産業構造が畜産経営を中心に離農と大規模化を進めた(「豪州の畜産農家における経営収支実態と所得向上の取り組み」農畜産業振興機構)。オーストラリアの経営規模は牧草地の多い畜産農家の影響が大きいが、日本の約1300倍とも言われ、日本に比べけた違いに大きいと言える。

 Fresh Selectも、元々はイタリア移民を祖先に持つ家族経営だった。生産する野菜の大部分をスーパーマーケットチェーンなどとの契約栽培とし、大口の需要に対応するため、規模を拡大していった。オーストラリア政府の農業政策と産業構造がこのような大規模農家を生んだとも言える。

副産物の活用や観光農園など、多様な経営努力

 Fresh Selectは、野菜の収穫・選別過程で出る大量の葉や茎など残渣を加工品にするビジネスを展開するため、敷地内に専門会社も設立している。不要部分をパウダー化して、クッキーなどにして健康志向の成人にも適した繊維質補助食として販売されている。廃棄物削減と副収入の確保の両立を目指す、日本でいう6次産業化の取り組みである。

粉末に加工している野菜(Nutri Vのホームページより)

 こうした経営上の工夫を凝らす農業法人はオーストラリアに多い。同地区にあるFragapane Farms(フラガパネ農場)では、約500haの畑でブロッコリーやキャベツを栽培し、区画ごとに輪作を取り入れるブロックローテーションを実施して土壌肥沃度を維持している。水が貴重なこの地域では、ため池を利用した自前の灌漑システムも備えている。

ため池で灌漑(筆者撮影、以下同)

 メルボルン郊外東南に位置するThe Bramble Farm(ブランブル農園)というベリー農園は、規模こそ数ヘクタール程度だが、観光農園と教育農園を兼ねたアグリツーリズム施設として、地元の家族連れに摘み取り体験の場を提供している。


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