理想はドメスティックな映画のグローバル展開
もちろん、日本の実写映画が、ビジネス的にも表現的にもそのリソースをテレビやマンガに求めていることにまったく問題がないわけでもないだろう。今後、『寄生獣』や『進撃の巨人』、『海街diary』が待機しているとは言え、人気マンガ原作は枯渇状況が続いている。資源は有限だ。
さらに、『テルマエ・ロマエ』のケースで言えば、この原作は日本映画が世界に打って出る格好の題材でもあった。たとえば主人公のルシウスにジョージ・クルーニーを配すなどすれば、日本だけでなく、北米やヨーロッパ、東アジアのマーケットにも売ることができたはずだ。欧米人のオリエンタリズムにしっかりと刺さり、中華圏や韓国では西洋とアジアのカルチャーギャップを楽しんでもらえたかもしれない。そうすれば100億円どころか、その数倍の大ヒットとなり、日本映画の存在感を見せつけることができたかもしれない──しかし、フジテレビはそのチャレンジをしなかった。
結果だけ見れば、この映画は2作で興行収入100億円を超えた。もちろん日本国内のみの成績だが、ビジネス的に大成功なのは間違いない(イタリアや香港、台湾などでも公開されたが、これらをすべて足しても5000万円には届かない)。従来の日本映画と同様、国内で完結する作品なのである。
この観点から言えば、『テルマエ・ロマエ』にはふたつの側面がある。ひとつはドメスティック、もうひとつはガラパゴス化だ。
ドメスティックとは、映画内容にテレビ・コント・マンガ的表現が見られるなど、日本独特の世界観や表現が見られる点だ。映画以外の領域にも明るく、西洋コンプレックスを持っていなければ、これはポジティヴな要素だと認識できるはずだ。
ガラパゴス化とは、映画においては作品内容ではなく輸出についてを意味する。現状、この映画のようにまだ豊かな国内マーケットを重視するあまり、輸出はほとんど成功していない。クールジャパンなどと騒がれていても、アニメはともかく実写映画は蚊帳の外だ。
類例なき人口減少社会の日本にとって、海外マーケットは今後決して無視できなくなる。そこで必要なのは、単にグローバリズムに歩調を合わせるのではなく、ドメスティックなコンテンツをグローバルに展開することである。つまり、ハンバーグではなく寿司を輸出することだ。
現在公開されている『青天の霹靂』や12月公開『進撃の巨人』のプロデューサーである東宝の川村元気も、「スーパードメスティック」論を展開する。それは、「超日本的な世界観が、いきつくところ作品の特長となる」ことを意味する。まさに『テルマエ・ロマエ』は、原作からその強い可能性を秘めていた。
個人的に今後望むのは、フジテレビがキャストを一新して、海外向けの『テルマエ・ロマエ』を創ることである。リメイクされてハリウッドに持っていかれるよりも、そうした新たなチャレンジをぜひ見せて欲しい。
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