テレビとマンガに支えられる日本映画
長らく低迷していた日本の映画産業が2000年代に復活したのは、間違いなくテレビ局のおかげだった。だが、熱心な映画ファンや映画評論家、さらにはインディペンデント系の監督やプロデューサーなどは、テレビ局が製作した映画を嫌う傾向がある。
たとえば映画の“自立性”を重んじる人は、「ドラマの延長なんて、映画とは呼べない!」と嘆き、たとえばエリート意識の強い人は、「テレビと同じで、観客は頭を使わずに観ているだけだ!」と知の頽廃を嘆き、たとえばマイナー趣味を生きがいにする人は、「テレビの大量宣伝と話題性に釣られているだけだ!」と嘆く。みなさん、嘆くことが大好きなご様子。
でも、嘆く前にもうちょっと考えてみる必要もあるんじゃないだろうか。だって、そこにはマンガ原作の実写化という要因もあるからだ。なぜか彼らはマンガについては嘆かない。
下の円グラフは、2000年から2013年までの興行収入10億円以上の日本映画367本を、原作のタイプ別に興行収入割合で分類したものだ。『デスノート』などマンガの実写映画化は全体の10.9%、『ROOKIES -卒業-』などドラマを経たスピンオフ映画は6.9%、さらに『仮面ライダー』シリーズを足すと全体の20.2%をマンガ原作の映画が占める。つまり、実写映画のヒットの五分の一はマンガ原作なのである。もちろん、アニメも足すとさらにその割合は増える。
マンガ実写化のターニングポイントは、2002年に松本大洋原作『ピンポン』が、スマッシュヒットとなったことだった。アスミック・エースとTBSが組んで製作したこの映画には、小学館も製作参加している。以降、講談社や集英社など他の出版社も積極的に映画に参加するようになる。
『ピンポン』は映画表現としても斬新だった。その最たる特徴は、松本大洋独特のマンガ表現を実写に持ち込んだことだ。従来のリアリズムとは異なる、マンガ的リアリズムが導入されたのである。以降、『デスノート』、『NANA』、『のだめカンタービレ』、『るろうに剣心』等々、実写にマンガ的リアリズムを導入した作品が日本映画界の中軸を占めていく。テレビ局+マンガ原作──それはヒットの方程式となったのだ。
前置きが長くなったが、今回取り上げる『テルマエ・ロマエII』も、この文脈に位置づけられる作品だ。