最後の課題は国際問題である。簡単に言えば、台頭する中国にどう対応するかである。2010年に中国が日本を越して世界第2位の経済大国になったのは歴史的転換点だった。日本は韓国と並んで、1990年代以降の中国の経済成長から恩恵を受けてきたが、中国との競争においては、新たな産業戦略を必要とする。TPPの締結は、この問題とは別ではあるが、相対的には、中国を周辺に押しやる経済圏を構築することになる。自由原則に基づくTPPは、まずは米国の利益に応えるものであり、日本の経済や社会の一部に悪影響がないわけではない。この点、安倍氏の慎重な態度は適切であり、TPP同様にEUと米国で交渉しているTTIPに関しても、参考になる。
だからこそ、安倍氏の外交関係における見識と戦略の欠如には驚かされた。
中国が、領土問題で近隣諸国に挑戦している時、この地域で韓国を除いては唯一の民主主義国である日本には、安定装置の役割を担ってもらいたい。が、靖国参拝や歴史修正主義、平和憲法改正等の話は、近隣諸国のみならず、地域の緊張を高めたくない同盟国、米国にも衝撃を与えた。
上記の様々な課題は、日本独自のものではなく、我々皆に関係する。だからこそ、経済政策でも、エネルギー政策でも、国際関係でも、安倍政権が、時に慎重に時に大胆に行なう政策は、注目に値する。
このことは、一方で、日本がじっとしてはいないことを、他方で、国際的、技術的制約があっても改革の方法は1つではないことを示す。これは、フランスにとっても教訓になる。折しも、フランスは、二国間関係やアフリカ等第三国への協力に関して、日本と戦略提携を結ぶことを決めた。だからこそ、今後も安倍総理が我々を驚かせてくれ、フランスを特別なパートナーと認めてくれることを望む、と述べています。
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上記は、安倍総理の訪仏に合わせてル・モンド紙(電子版)に掲載されたものです。安倍内閣のこれまでの成果について、特に金融政策と給与政策について、驚きと称賛の意は表しています。ただ、100 %好意的というわけではなく、靖国神社参拝を外交戦略の欠如と呼ぶなど、シニカルな批判もしています。
結論部分では、問題を特定しているわけではありませんが、「国際的制約が有っても解決の方法は1つでは無い」ことを示した安倍総理の政策は、フランスにとっても教訓となると言っています。つまり、安倍総理の大胆不敵な行動を称賛し、それが日仏関係にも有益となるので、フランスと戦略的パートナーシップを進めて欲しいと期待している論説です。
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