共通する倫理感の弱さ
学歴詐称問題で市議会に不信任決議を可決され議会を解散し、市議会議員選挙後の議会から再び不信任とされて市長の職を失った静岡県伊東市の田久保真紀前市長は、自身の失職に伴う市長選への出直し出馬を表明している。
市幹部職員とホテルでたびたび密会していたことが問題となった群馬県前橋市の小川晶市長については、11月27日の市議会で不信任案が可決される見通しだったが、それに先立って議会に辞職を届け出た。本人は出直し市長選に出馬の意向と報じられている。
沖縄県南城市の古謝景春(こじゃけいしゅん)市長はセクハラ問題が発生し、市議会の不信任決議に対して市議会を解散し、選挙後の市議会で再び不信任決議が可決され自動失職したが、出直し市長選に出馬が噂されている。
斎藤知事、田久保前市長、小川市長らに共通しているのは「メンタルの強さ」だという説がある。多くの人から批判されても心が折れないでがんばるからそう言われるのだろう。しかしそれ以前に、自分がやったことについて釈明したり謝ったりしても、本心では悪いことをしたと思っていないからがんばれるのである。正確に言えばメンタルが強いのではなく倫理観が弱いのである。
市民が政治家に期待するのは「違法なことはしない」ではなく「社会の範となる言動」である。尊敬に値する人であってほしい。違法でないだけでは足りないのである。
知事、市長に限らず国会議員でも問題行動が露顕して辞職する人が後を絶たない。今に始まったことではない。しかし今、問題なのは、議会の不信任に抗し続ける人たちが出始めたことである。しかもそれを支持する人たちが増えた。
高度情報社会で短絡的な主張が蔓延しやすく
斎藤知事が再選されたのを見て、問題を起こした市長たちが自分もがんばろう、がんばりきれると思っていることは容易に想像できる。斎藤知事の選挙ではリアルとSNSの相互作用が大いに効果があった。公職選挙法違反について不起訴処分となった本人も選挙運動で大いにSNSを活用したが、2馬力選挙と称して斎藤知事を応援した政治団体・NHKから国民を守る党党首の立花孝志容疑者のユーチューブチャンネルは1500万回近くも再生されたという。
立花容疑者が知事選中に行った発信は、その後亡くなった竹内英明元県議が斎藤知事批判の黒幕だという説を主眼としたものだった。これに関連し先頃、立花容疑者は「竹内元県議が近く逮捕される予定だった」という事実と異なる情報をSNSで流したとして兵庫県警に名誉毀損容疑で逮捕され、送検されている。あのとき竹内元県議のところには大量の抗議メールが殺到した。
最近でも高市首相の発言に対して「口だけ番長」と批判した橋下徹氏のXの閲覧数が1000万件近くに達し(ふだんの閲覧は数10万件)炎上状態となった。今、高市批判は炎上の対象となっている。かつて、高度情報社会になると誰でも容易に情報を入手できると言われたが、実際には高度情報社会に入って短絡的な主張が蔓延しやすくなった。
ヨーロッパでは第一次世界大戦後の経済不況をはじめとする諸問題について、国際金融資本の重要な一翼であるユダヤ人の陰謀であるとする説が起こり、何年もの紆余曲折を経てナチスによるユダヤ人の大量虐殺に至った。
